第2回 いちおうスペック晒しとく

「まさにこの仕事にぴったりです」

ハンドキャリーの面接でそう言われた。海外でどぎまぎする旅慣れてない人は向いていない。スペイン留学後、中南米を放浪した。スペイン語圏にトータル5年はいる。日本に帰ってきてからは、フィリピン、中米、メキシコのガイドブックをつくっている。

 

2002年アンデス山脈をチリから徒歩で越えた一晩のうちに経済破綻したアルゼンチン・イグアスの滝

日本人宿でアホなバックパッカーが得意気に語るような自慢話はしたくないが、“武勇伝”はそれなりにある。恐喝、詐欺、盗難、強盗、遭難、暴動、拘束……。機関銃もロケットランチャーも戦車も見た。銃声を聞いたことも一度や二度ではない。他人の旅話で「参りました!」と思ったのは、乗っていた飛行機が墜落した話と、野グソ中に目の前を雪崩が通過した話と、ガンジス川の水の味で流れている死体が人か牛かわかるようになったという話だけだ。

ハンドキャリースタッフは全員英語ができる。その上でさらに他にできる言語があればなおよし。しかし、この英語がくせものである。ピジンイングリシュも、ヒンディー訛りのヒングリッシュも、タガログ語交じりのタグリッシュも、全部聞き取れたら大したもんだ。言語のみならず、コミュニケーション能力は高いに越したことはない。

スペイン語を話すゆえ、主にメキシコ要員である私は、人口10万人当たりの殺人件数による2012年度世界ワースト50都市のうち、この仕事で5都市に行った。ガイドブックの仕事やプライベートも全部ひっくるめると、うち24都市に行っていることになる。しかし、2012年度では中南米がほとんどを占めていたランキングに、2013年度では中東やアフリカからも入っている。国の情勢はたった一晩で変わってしまうこともある。

もちろんハンドキャリーは運んでいる荷物とスタッフの人命が第一。それなりの交通手段と宿泊先は保証されている。バックパック担いで自腹と自力で行くことを思えば、ずいぶんと楽をさせてもらっている。旅のキャリアを活かすには、うってつけの仕事なのだ。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が6年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2013年現在、46カ国を歴訪。

以下、ネット上で読める執筆記事
春秋社『WEB春秋』「ここではないどこかへ」連載(12年5月~13年4月)
カジュアルプレス社『月刊リアルゴルフ』「片岡恭子の海外をちこち便り」連載中(08年8月~)
東洋マーケティング『Tabi Tabi TOYO』「ラテンアメリカ de A a Z」連載中(11年3月~)
朝日新聞社『どらく』「世界のお茶時間」ハーブの国の聖なるお茶 Vol.22 ペルー・アンデスのマテ茶(10年2月)
朝日新聞社『どらく』「世界の都市だより」リマのひと マテオの口元ほころんだ(06年11月)
NTTコムウェア『COMZINE』「世界IT事情」第8回ペルー(08年1月)