第3回 ロスバゲこわい

 

つい先日、ロサンゼルスで搭乗予定だった便が機体故障で欠航となった。幸いすぐにエンドース(他社便への振り替え)できた。ディレイ(遅延)で始発まで空港からの交通手段がなくなってしまい、航空会社が用意したホテルに泊まったこともあった。メキシコからの飛行機が濃霧で飛べず、アメリカで乗り継ぎ便を逃したこともあった。

荷物を海外へ持っていくことも、海外から持ってくることもあるが、ほとんどの仕事が前者だ。これまでのトラブルはいずれも荷物を届けた後に起こっている。仕事が終わった後なら、エンドースでもディレイでもたいしたことはない。

運んでいるのは一刻を争うブツである。DHLでも間に合わないから、ハンドキャリーが出動するのだ。日本で生産している部品を、海外で組み立てている製品は、部品の到着が遅れれば、工場が止まってしまう。あるいは工場で使っている機械が壊れて、交換しなければ稼働できないこともある。工場が止まると大きな損失が出る。それを防ぐために1年365日、1日24時間体制で荷物を運ぶのがハンドキャリーである。

運び屋がもっとも恐れていること、それはロストバゲージ。ロスバゲを防ぐために、極力手荷物として機内持ち込みにする。できるかぎり直行便を使う。直行便がない場合も経由地は1ヶ所に留める。搭乗ごとに荷物が搭載されていることを必ず確認する。直行便はまず安心なのだが、問題は経由便である。ロスバゲが多い航空会社は使わない。ロスバゲが多い空港は経由しない。これが鉄則だ。

サンパウロまでフランクフルト経由で荷物を届けたことがある。ルフトハンザ航空で一面の銀世界、真冬のドイツを経て、万年常夏のブラジルへ。所要30時間。死ぬかと思った。たとえスタッフが疲労困憊しても、荷物を無事に届けることが最優先である。

国際便に100往復以上乗っているが、ロストバゲージはたったの一度もない。荷物を守るために、選び抜いたルートを毎度飛んでいるおかげだ。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が6年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2013年現在、46カ国を歴訪。

以下、ネット上で読める執筆記事
春秋社『WEB春秋』「ここではないどこかへ」連載(12年5月~13年4月)
カジュアルプレス社『月刊リアルゴルフ』「片岡恭子の海外をちこち便り」連載中(08年8月~)
東洋マーケティング『Tabi Tabi TOYO』「ラテンアメリカ de A a Z」連載中(11年3月~)
朝日新聞社『どらく』「世界のお茶時間」ハーブの国の聖なるお茶 Vol.22 ペルー・アンデスのマテ茶(10年2月)
朝日新聞社『どらく』「世界の都市だより」リマのひと マテオの口元ほころんだ(06年11月)
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