何年も前の出来事だけれども、私は子どもの通う学校でボランティア活動をするために、書類に名前や住所などを記入し、学校区に提出したことがある。書類には犯罪歴を問う内容もあり、私は「犯罪歴、逮捕歴なし」と回答した。
ユーススポーツなどでボランティアとして指導者役を引き受ける場合にも、バックグラウンドチェックといった経歴や犯罪歴確認を受けるのが一般的だ。子どもたちを、暴力的な指導や性的虐待から守るために必要なことだとされている。
企業が従業員を採用する際には、人種や性別を採用基準とすることは固く禁じられているが、法律の範囲内で犯罪歴などを調査することはできる。
社会生活にインターネットが定着してからは、多くの民間会社がオンライン上で個人情報を検索できるサービスを提供しはじめた。カリフォルニア州の元郡保安官が起業した経歴、犯罪歴をスクリーニングするウェブサイトもそのひとつだ。元保安官はこのウェブサイトの利用法として、あるアイデアを提案している。
米国には子どもを遊ばせるのに、親同士が遊び場所や遊び時間を決めて遊ばせる「プレイデート」というものがある。日本に比べて住宅も広いところが多いことから、「スリープオーバー」として子どもの友達を自宅に泊まらせたり、友達の家に泊まらせてもらったりすることもある。そのようなときに、バックグラウンド確認サービスを使用して、子どもの友達の親が信頼できる人かどうかを事前に経歴、犯罪歴を確認するべきだと宣伝しているのだ。子どもの友達の親に犯罪歴があった場合には、子どもをそこの家で遊ばせてはいけないということなのだろう。
この先、私自身が誰かに経歴や犯罪歴を確認されることもあるだろうが、私は従業員を雇う予定もないし、こういったサービスを使うことはないと思う。子どもを通じて知り合った米国人や外国人のママ友やパパ友とも、しゃべったり、遊んだり、食事をしたりしているうちに、気がつけば子どもを預けあう関係になっていた。私は、べつに世界中の全ての人々を信頼しているわけではないけれど、自分の感覚を働かせて、人と知り合って少しずつ関係が深まっていく楽しさや、一瞬にして分かり合える喜びを味わうほうが好きだ。
≪谷口輝世子(たにぐちきよこ)/プロフィール≫
デイリースポーツ社で1994年よりプロ野球を担当。1998年に大リーグなど米国スポーツ取材のために渡米。2001年よりミシガン州に移り、通信社の通信員などフリーランスとして活動。プロスポーツだけでなく、米国の子どものスポーツや遊び、安全対策、スモールビジネス事情などもカバーしている。著書『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、章担当「スポーツファンの社会学」(世界思想社)。主な寄稿先 「月刊 スラッガー」(日本スポーツ企画出版社)、体育科教育(大修館書店)