第2回 読書好きを育てる、面白図書館

私が住むニュープリマスは、周辺の小さな町を合わせても人口6万人ほどの規模。赤ちゃんや幼児を連れて気軽に行くことができ、なおかつ親も子も共に楽しめるところは限られている。そんな時、一番に頭に浮かぶのは図書館だ。本が並んでいるだけではない。図書館にはお楽しみが待ち受けている。

読み聞かせと組み合わせ、アート&クラフトを

毎週水曜日に館内の子どもの本が並ぶ「ディスカバー・イット!」と名付けられた子どものためのコーナーでは、図書館員が絵本を読んでくれる時間がある。読み聞かせのための絵本は、シーズンに合ったもの、年中行事や町で行われるイベントと重なっていれば、それに関するもの、また博物館や図書館内で行われている展示の内容に沿ったものと、きめ細やかに選ばれている。日本にあるような読み聞かせの講習会に参加したわけでもないのに、図書館員たちの本の読み方には抑揚があり、ジェスチャーも豊富で、とても上手だ。

子どもたちは床でクッションに寝そべったりして、自宅さながらにくつろぎながら、お話を聴く。しかし、お話が始まったとたん、魔法にかかったかのように、物語の世界に引き込まれ、周りのことなど、目にも耳にも入らなくなる。読んでいる最中に読み手が子どもたちに質問をすると、皆サッと手を挙げて自分の考えを話す。一緒に一節を読むように呼びかければ、どの子も元気よく声をそろえる。

読み聞かせが終わると、読んだ本に関係があるアート&クラフトの時間だ。材料、ペン、テープ、糊、はさみなどの文具は図書館から提供される。海に関係があるお話の後だったら、食品用ラップフィルムの芯にお米を入れてふさぎ、波の音が出る楽器を作ったり、クモの出てくるお話だったら、ストローを組み、それに毛糸を巻きつけてクモの巣を作ったり、という具合だ。聴いた話を自分なりに解釈したり、イメージしたりし、それを形にすれば、言葉として聴いて吸収するのとはまた違った角度から本の内容を理解できるのではないだろうか。

館内で日本文化を紹介する展示をした際には、連動して日本のアクティビティを。七夕の紙芝居、笹飾り作りを子どもたちは楽しんだ。私もお手伝いし、子どもたち同様充実したひとときを過ごした

こうしたプログラムは普段は幼児向けだが、約1ヵ月半に及ぶ夏休みや、年に3回ある、2週間ずつの学期と学期の間の休みには、小・中学生向けのものも行われる。これには事前に予約が必要。人気があるので、うっかりしていると、あっという間に空きはなくなる。

夏休み中の読書もこれなら楽しさ倍増

夏休みは毎日のお決まりの習慣から解放される時であり、それは読書に対しても同じだ。アウトドアで過ごすのが楽しい季節でもあり、学校の宿題もないこの時期、学期中には本を読んでいる子も、読書から遠ざかってしまうことが多い。

図書館では、夏休み中の本離れを防ぐために、「サマー・リーディング・プログラム」を実施している。これは小学生が対象で、自分が今読んでいる本について図書館員と話し合うというもの。このために子どもたちは休み中毎回間隔を置いて最低4回は図書館を訪問する。これを「チェックイン」と呼んでいる。チェックインの時には、まず本の内容を説明し、館員はそれぞれの本や年齢に合わせた質問をし、子どもはそれに答える。こうした機会があると、ただ漠然とではなく、物語が頭の中にしっかり入る。お気に入りの本を見つけると、顔なじみになった館員にそのことを伝えたくなり、次の訪問を心待ちにすることもある。好きな本を他の人とシェアできる素晴らしさを、子どもたちは発見する。

サマー・リーディング・プログラムの参加者には、借りた本を入れるバッグ、読んだ書名を書く欄のあるフォルダが配られる。このバッグに本を入れ、チェックイン時に持参し、フォルダにステッカーをもらう。

チェックインごとに、必ずご褒美として塗り絵や迷路、言葉遊びなどのプリントと小さなプレゼントをもらえる。石の塊を削っていくとレプリカの化石が出てくるものや、強力な磁石の力のために、投げると音が出る、対になった小さな円柱型の金属のおもちゃ、プラスチックの小片が組み合わされ、投げる度にそれが組み変わり、表面の柄が変わるボールなど、とても変わったプレゼントが多く、子どもたちは楽しみにしている。

意欲的な図書館員に支えられて

図書館で行われるプログラムはとっかえひっかえ、内容を常に変え、飽きがこないよう配慮されている。だからといって、図書館員たちは何でもやりたい放題できるわけではない。プログラムの参加費はすべて無料であり、アート&クラフトの主な材料はリサイクルであることからもわかるように、予算などの制約がある。それをカバーしてあまりあるのが、館員の献身だ。

館員が読んでくれるお話に釘付けの子どもたち。読み方が上手なだけでなく、自身の本への愛着、それを分かち合いたいという熱意が子どもを虜にする © Puke Ariki

子どもたちに本の素晴らしさを知ってほしい、アート&クラフトを通して、本を違う角度から見てほしいという思いを胸に、日々アイデアを出し、それを実現できるように努める館員には、利用者として頭が上がらない。情熱と創造力が、図書館内のプログラムをしっかりと支えている。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。娘が赤ちゃんの時から中学生になる今も、ここで紹介したアクティビティのヘビーユーザーとして、足しげく図書館に通う。