第3回 作家や語り部の手を借りて、お話の世界はどんどん広がる
チルドレンズ・ブック・フェスティバルのオーサー・ビジットで図書館を訪れたクレイグ・スミスさん。彼のほかにも多くの作家や挿絵画家が子どもたちと交流した © Puke Ariki

本の楽しみ方とは? と考えた時、言わずもがな答えは、書かれたお話を「読む」ということになるだろう。もし自分以外の誰かがお話の世界にいざなってくれたら、どうだろう? 自分で読むのとはまた違った、お話の一面が見えてくるかもしれない。

作者と共に過ごすことで、本がより身近に

1冊の本を読み終えたとする。そしてそれがとても気に入ったとしたら、どうするだろう? おそらくまずは同じ作者の似た作品を探し、読んでみるのではないだろうか? そうして同じ作家による本を複数読み、裏表紙などに載っている顔写真やプロフィールを見て、その人となりを想像してみたりし、本人に会いたくなる。昔ならここでファンレターを書いたところかもしれない。けれども最近は、作家に実際に会える機会が、子どもたちのために設けられている。

それが「オーサー・ビジット」だ。国内の売れっ子作家が、NZブック・マンス、チルドレンズ・ブック・フェスティバルなどの特別なイベント時に学校や図書館を訪れ、自作を中心に子どもたちと本の話をする。訪問時の最新作をまず作家自身が読み手となって読み聞かせた後、子どもたちとの質疑応答とおしゃべりが繰り広げられる。どうしてこの本を書こうと思ったのか、どれぐらいの時間をかけて書き上げたのか、主人公の名前はなぜこの名前なのかといった、内容に関する質問あり、どこに住んでいるのか、子どもはいるのか、ペットは飼っているか、好きな食べ物は何かなど、作家にまつわる質問あり。作家と子どもたちは大いに盛り上がる。

時には単なる会話のみでは済まされないこともある。ロバのことを書いた『ウォンキー・ドンキー』を2009年に出し、爆発的な人気を得た作家クレイグ・スミスさん。シンガーソングライターでもある彼が娘の学校を訪れた時には、全校生徒が彼が弾くギターに合わせ、絵本の中に出てくる韻を踏むフレーズを大合唱したそうだ。娘はすでにその時、『ウォンキー・ドンキー』を読む年齢を過ぎていたのだが、それでもクレイグさんのオーサー・ビジットを大いに楽しみ、今でもその時の様子を思い出し、うれしそうに話してくれる。こんな風に、共に過ごし、作家自身を知ることで、子どもは本への興味を深めていく。

ストーリー・テラーがいざなうイマジネーションの世界

「読み聞かせ」は、小さい子どものための本の楽しみ方。親、祖父母、教師、図書館のスタッフなどが日常的に読み聞かせをしてやることで、まだ字が読めなくても本に親しむことができる。この年頃の子どもが読む本は絵本が中心。文章を補足する絵があることで、子どもは内容をより理解することができる。

読み聞かせと似ているようで、まったく違うのが「ストーリー・テリング」だ。私も実際足を運ぶまで、今ひとつ双方の違いを理解していなかった。ストーリー・テラー(語り部)は魔法使いの格好をしていたり、フェアリーの衣装を身に付けていたりして、ぱっと見たところ楽しそうなので、娘がまだ小さいころにストーリー・テリングに連れて行ったことがある。娘はそれなりにテラーの姿には興味を持ったものの、お話の最後が来る前に飽きてしまった。そう、テラーの語りを満喫するには、イマジネーションと集中力が必要。参加している子どもの年齢が、予想していたより上なのに納得がいった。

ストーリー・テラーは本の字面を追って読み聞かせるわけではない。お話を自分なりに解釈し、それを皆の前で語る。その点でテラー個人のカラーが出る。作品は「一旦」、テラー色に塗り替えられる。

しかしそれは「一旦」に過ぎない。お話はテラーが語ることによって、彼女や彼のカラーになった後、最終的にそれを受け止める子どもたちひとりひとりのカラーに落ち着くからだ。ストーリー・テリングに絵を使うわけではないし、登場人物が出てくるドラマではないので、聞き手の子どもたちは積極的に想像力を働かせ、自分なりにそのお話の世界を築き上げる。テラーの話を聴き、今度はお話を自分色に染めるというわけだ。

図書館でのストーリー・テリングの時間。この時は背景や小道具があったが、テラーひとりが、皆の前に立ってお話を展開することが多い © Puke Ariki

本には読む以上の楽しみが隠されている。自分がストーリー・テラーだったらどうやって表現するだろう? 自分が作家だったら、この作品の続編はどう書くだろう?――作家やストーリー・テラーが招き入れてくれた本の世界を、今度は自分で新たに展開し、冒険を続けることができる。本は小脇に抱えられるほど小さいものだが、無限の可能性と喜びを秘めている。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。スカイプを用いて行うオーサー・ビジット、「ブック・トークス」は素晴らしいアイデアなのに、資金不足のため一時活動を余儀なくされている。少しでも早い再開を願う!