第12回 行きつけの国~その8ベトナム~
ベトナムの鶏肉うどん、フォー・ガー

ここしばらく北米にいることが多かった。南沙諸島での石油掘削が発端となったベトナムでの反中デモをCNNで見た。火を放たれたのか、建物がめらめらと燃えていた。トラブルが少ないアジアへの仕事は、まだ経験の浅い人が飛ぶことが多い。メキシコ要員であるため、ベトナムはとんとご無沙汰だが、以前はハノイやホーチミンによく行っていた。

ベトナムはアメリカに唯一戦争で勝った国だ。アメリカ人は好きだがアメリカという国は嫌いなので、ベトナムは特別な国だと思っている。オリバー・ストーンの作品をはじめ、ベトナム戦争の映画はたくさん観た。ベトナム人は竹やりでアメリカ兵から武器を奪って勝ったのだからすごい。

フォーやブンチャーなどの麺を箸で食べるベトナム。料理がおいしいのは中国の影響が大きいのではないだろうか。民族衣装のアオザイはどう見ても薄手のチャイナドレスだ。北ベトナムでは1954年まで、南ベトナムでは1975年まで漢字が使われており、今もベトナム人の名字は表記に漢字こそ使ってはいないが漢姓である。

支配の結果としても親交の結果としても文化は伝播する。ベトナムへの中国文化の影響は侵略の結果だとベトナム人は言うだろう。そもそものルーツを考えれば、黄色人同士が混血を重ねた結果が、今の日本人であり、ベトナム人なのである。ラテンアメリカでスペイン征服後に生まれた、白人と先住民の血を両方とも受け継いだメスティーソとはまたずいぶん事情が違うように思う。

ベトナムの反中デモでは台湾・韓国・日本企業も被害を受けている。見かけでの区別が難しいので漢字をターゲットにしたのだろう。同じ漢民族同士でも中国と台湾は複雑な関係である。人種対立や宗教対立ならわかりやすいが、国境紛争は血もルーツも一切関係がない。むしろ、同じ血やルーツを持つ者を分かつものが国なのかもしれないと、我が国での反中・反韓や中国、韓国での反日、そしてベトナム情勢を見ていてふと思った。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2014年現在、46カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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