第15回 シンガポール航空12便
シンガポールのリトル・インディアにあるスリ・ヴィラマカリアマン寺院

英スカイトラックス社による航空会社の格付けで5つ星の太鼓判を押されているシンガポール航空。何度もエアポート・オブ・ザ・イヤーに選ばれているチャンギ国際空港へ成田から向かう便は快適そのものなのだが、逆に成田へとやってくる便は少々事情が異なる。

シンガポール航空12便は成田からロサンゼルスへ飛ぶ。成田を夜に出て、ロサンゼルスに昼に着くこの便をよく利用する。シンガポール航空のハブ空港はチャンギ国際空港なので、SQ12便はシンガポール発成田経由ロサンゼルス行きである。

シンガポールの人口比率は中華系74%、マレー系13%、インド系9%である。しかし、そのわりにはSQ12便にはインド人が多い。実はシンガポール航空はインド各地とシンガポール間をつないでいる。つまり、ニューデリー、アフマダーバード、バンガロール、コルカタ、チェンナイ、ムンバイから集結したインド人をアメリカへと毎日運んでいるのがSQ12便なのだ。

SQ12便の機内でぎゃん泣きしているのはまずインド人の子供だと思ってよい。そして、飛行機酔いで盛大に吐いているのはインド人の大人である。もしかしたらインド人ではなく、ネパール人かもスリランカ人かもパキスタン人かもバングラデシュ人かもしれないが、手でカレーを食べる人々はみな、インド人とその亜流なのだと私は理解している。

「おまえは他人に迷惑をかけて生きているのだから、他人のことも許してあげなさい」とインド人は我が子に教える。確かにそのとおりだ。子供は泣くのが仕事だし、気分の悪い人を誰も責められない。シンガポール航空のキャビンアテンダントは実に慣れたもので、インド人による阿鼻叫喚が始まるや否や、耳栓を配り出す。

現在、インドの人口は12億5千万人を超え、中国に次ぐ世界第二位である。このままいくと2026年にはインドが中国を逆転し、世界一になるそうだ。つまり、SQ12便でのフライトは、インド人だらけになる少し先の世界の予行演習なのだ。


片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2014年現在、46カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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