第16回 行きつけの国~その9シンガポール~

世界三大がっかり名所のひとつ、本家本元マーライオン

行きつけなのはシンガポールというよりもチャンギ国際空港なのだ。東南アジア最大級のハブ空港でASEANマーケットのど真ん中にあり、なおかつフリーポート(自由貿易港)なのだから、チャンギ国際空港に行ったことがない運び屋はモグリである。

マレー人を優遇するブミプトラ政策をとるマレーシアから追い出された華人たちが1965年に建国したのがシンガポールだ。琵琶湖ほどの大きさしかない小さな国の主要産業は観光。資源もなければ、水源もないが、それを創意工夫で補っている。まさに華人の英知を結集したような国である。そんなシンガポールはいつ行っても安全で清潔で楽しい。

しかし、その清潔の度合いが少々やりすぎなのである。麻薬に関して厳罰が科せられるのは良いとして、とにかく細かい罰則事項がやたらと多い。ゴミやタバコのポイ捨ては罰金。トイレの水を流さなければ罰金。鳩に餌をやると罰金。泥酔すれば罰金。地下鉄で飲食すれば罰金。路上につばを吐けば罰金。チューインガムの持ちこみも罰金。罰則を揶揄したTシャツがみやげ物屋で売られているほどだ。シンガポールはかくもFine Country(「素晴らしい国」とも「罰金国家」という意味にもとれる)なのである。

ジョホール海峡に架かるコーズウェイ橋をシンガポールからマレーシアのジョホールバルに抜けると、なんとなくほっとする。ほどほどに危なかったり、汚れていたり、いいかげんだったりすることが、心地よさにつながることもあるのだ。

インターネットはもちろん、マッサージチェアも無料なら、映画もゲームも無料。さらに乗り継ぎ時間が5時間以上あるトランジット客は、2時間のシンガポールツアーに無料で参加できる。まさに至れり尽くせりのチャンギ国際空港。もちろんフラッグ・キャリア、シンガポール航空の空港ラウンジは設備も食事も申し分ないのだが、シャワーがないのが唯一の欠点だ。マレーシアから水を買っているシンガポールでは、いかんせん水がとても高いのである。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2014年現在、46カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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