202号/西川桂子

バンクーバー周辺の老人ホームに暮らす日本人の話し相手ボランティアを始めて、2年ほどになる。

現在、訪れている老人ホームは、要介護度が比較的高い人たちが対象で、認知症だったり、パーキンソン病だったりする。ここには20人近くの日本人や日系人も暮らしている。近郊には日系人向けの介護施設もあるものの、原則的には認知症を発症した人は入居できないためだ。

スタッフや入居者の多くがカナダ人の老人ホームで、英語が得意でなくても、音楽などのプログラムに積極的に参加しているお年寄りもいる。Kさんもそんなひとりだ。歌詞カードの英語が分からなくても、気持ちよさそうにハミングしている。Kさんと仲良しのTさんは99歳。転んで腰を傷めたそうだが、まだまだ元気だ。私が横でTさんとKさんの話を聞いていると、かみ合っていないが、当の本人たちは気にしない。二人の間では笑いが絶えず、私も楽しくなる。

一方、パーキンソン病が進行して、自分で身体を動かせないSさんは、言葉の問題で、身体の向きを変えて欲しいと介護士に頼むのも困難な状態に、フラストレーションを貯めている。「こんなことなら、自害してしまいたい」とボヤくことも多い。

私も移民して20年が経過した。子どもたちも大きくなってきた今、同年代の日本人の友人の中には、「老後はやはり日本。帰国する」という人も少なくない。でも、私は家族がいるカナダで骨を埋めるつもりだ。

ボランティアをしながら、彼らの年齢になったとき、私はどうしているのかなと、時折、考えてしまう。

(カナダ、バンクーバー在住/西川桂子)