先日、夫がぎっくり腰をやってしまった。わたしは未経験なのだが、その痛みたるや尋常ではないらしい。数日間は座ることもままならず、オランダ、アメリカとスイスへの出張をキャンセルした。その後2週間、夫もだいぶ元気になってイスタンブールの大会へ。ほっと一安心したわたしもフリースタイルスキー審判の仕事のため、出張先でこの原稿を書いている。
出張の朝、飛行場で映画のようなひとこまに遭遇した。8歳くらいをかしらに末はたぶん4歳ほど、3人の子どもを連れたお母さんがセキュリティチェックで順番を待っている。今回は一緒に出かけないらしく、行列の外から家族を見守るお父さん。順番待ちの列は蛇行しているので、前にすすむに連れて、家族がお父さんから離れていった。そのときだ、それまで笑顔ではしゃいでいた末っ子の目からぽろぽろ涙があふれだした。「お父さんはどこ?」
お母さんに促され振り返り、お父さんの姿を認めたとたん、一目散に駆け寄る女の子。愛娘を抱きとめて、ひとしきり優しく諭すお父さん。ほどなく、笑顔の彼女がお母さんと兄弟のところに戻ってきた。年末で忙しい時期の旅、行列で待ちながら少々殺気立っていた人々の表情も和んでいる。
旅の途中で心の琴線に触れるようなシーンに巡り会うことができるのも、また日々気持ちよく働くことができるのも健康であればこそなのだと、夫のぎっくり腰を経験してあらためて感じている。
みなさまどうぞ良いお年をお迎えください。
(スウェーデン、エステルスンド在住/田中ティナ)