今号の特集「バリアフリー」。世界から寄せられた原稿はいずれもお国柄と国民気質のバランスが絶妙で、読みながら「バリアフリーの必要な人って誰だろう?」と考えさせられた。たとえば、今は元気でもいずれ年をとれば体も若いころのようには動かなくなるだろう。とすれば、すべての人にとって強弱の立場は表裏一体。そう考えたら各エピソードが妙にリアルに感じられた。
一方で、11月10日の授賞式をひかえた10月初旬、各ノーベル賞受賞者が発表された。医学生理学賞には日本の山中教授が、そのほかの賞には中国、アメリカ、イギリス、フランス、そして欧州連合(EU)と、アカデミックな世界も「バリアフリー」と言えそうだ。
平和賞については賛否両論を耳にする。ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの経済危機、シリアを隣国とするトルコ、バルカン諸国の動向などEUが現在抱える問題を考えれば、受賞は目的達成へのご褒美ではなく新たな挑戦へのエールなのだ、という意見もあるだろう。いずれにしても、今回の受賞がヨーロッパ、そして世界の政治、経済、文化と私たち「地球丸の乗組員」みんなの幸せにつながるのならこれほどうれしいことはない。
SNSの発達した今日、一部の状況を除けば文化の相互交換は日常茶飯事で、人の交流や情報の流れを妨げる垣根は完璧とはいかないまでも着実に低くなってきている。だからこそ、対岸の火事は他人事ではないことを頭の片隅におきながら、心身ともにバリアフリーな人でありたい。
(スウェーデン、エステルスンド在住/田中ティナ)