256号/プラド夏樹

夏になると、私はフランスの北西にあるブルターニュ地方の島に行く。夫の家族の家が残っているからだ。普段は年配の人々が細々と暮らす人寂しい島であるが、それでもスキャンダルは起きる。毎夏、私は、その顛末を聞くのを密かな楽しみとしている。

2年ほど前、若い神父さんが派遣されて来て島に住みこみ、教区に新しい息吹を吹き込んでくれた。夏になると「いつも同じところでミサをするのはつまらないから」と言って、船を出し、信者さんを乗せて近くの無人島まで行きピクニック・ミサをしたりと、様々な新しいアイディアで島の生活を盛り上げてくれていた。一気に人気が上昇し、「教会なんて辛気臭い」と言っていた人々がミサに行くようになり、はっきり言えば、特に中年以降の女性信者が激増した。

でも、私には一つ気になることがあった。
イケメン過ぎるのである。
ギリシャ彫刻並みの彫りの深い顔立ち。
ファッションセンスも抜群で、流行のものをさりげなく着こなす。
なんだか、すべてができ過ぎていた。

この夏、島に行くと、当の神父様はいなくなっていた。

島の住人に聞くと、「バカンスに来ていたピアニストの女性と恋仲になり逃げた」ということだった……おまけに逃げたはいいが、その後、その恋人との関係は破綻し、尾羽うち枯らして島に帰って来たらしい。

しかし、島の人々は、教区を放ったらかしにして恋の逃避行をした神父を許さず、彼が教会に入ろうとしたのを阻止し、島から追い出した。彼はその後、神に許しを乞うために、スペインのサン・ジャック・ド・コンポステルに徒歩で巡礼に発ったということだった。

やっぱりねえ……でも、彼はまだ若い。今頃、足の裏に血豆を作って巡礼しているのかもしれないが、是非とも色々な人生体験をして渋い味のある神父様になって帰ってくるとイイなあと、私は密かに祈っている。

   (フランス・パリ在住 プラド夏樹)