204号/河野友見

満開の梅をあちこちで見かけると、「春が来た」と感じる。春は出会いや別れがあり、ものごとの始まり、そして終わりの季節でもある。

今年の春は、私にとって、ひとつの仕事が終わる。約一年前、桜の季節から始まったカフェ取材が、先日すべて終了した。11か月で、カフェ50軒。かなりの根気が必要だったように思う。スタート直後は取材がトントンと進み、「半年で終わるかも」と思っていた。でも、思わぬ伏兵がいた。我が家の息子である。

保育園に月に数日息子を預けては取材をしていたのだが、コンスタントに仕事を進めたい私を余所に、1歳の彼は日々成長する。昨日できなかったことが今日できるようになり、ヨチヨチ歩きが全力疾走になり、体も心もどんどん成長していく。そのペースは、私の日々の成長が「三歩進んで二歩下がる」なら、彼は新幹線のぞみN700系くらいの違いがあっただろう。当然、生活には変化が現れ、それに対応する母としての役目もあるわけで、私の時間の使い方にも変化が余儀なくされた。

家にいる日の午前中、一人遊びをしてくれていた約30分間は貴重な仕事の時間だったのだが、彼が「お外! しゅべり台しゅべる」と言いだしてからは、公園へ散歩に行くことが日課に。昼食後は昼寝をさせてから仕事に取り掛かるのだが、寝かしつけに1時間以上かかる日も。部屋を暗くして子守唄を歌っているうちに私の方が寝てしまい、気づけば暗がりの中で息子が一人遊んでいた……という日もしょっちゅうあった。

そんなこんなで息子に付き合い、目の回るような忙しい日々をこなすうちに11か月。なんとかすべての取材を終えられた。先日2歳になった息子に「協力ありがとうね」と言うと、息子は「ありがとね。お外行く?」とマイペースに答えた。

もうすぐ桜が咲く。私と息子にとっての、新しいスタートの予感がする。皆さんにも爽やかな春の訪れがありますように。

(日本・広島在住 河野友見)