第12回(最終回)物騒な世の中

私が以前働いていたロサンゼルス郡立病院は、警備が半端でなかった。患者は所持品をレントゲン装置でチェックされ、危険物がないと判断されると院内へ入るようになっていた。何か怪しいものがあれば、身体検査が行われる。まるで空港の安全検査のようだった。混雑する時間帯には、長い列ができていた。毎朝、病院へ入るために並んで荷物を検査され、さらに身体検査されている患者さんを横目で見ていた。

この病院は治安の悪い場所にあり、囚人棟もあった。そのせいかと思っていたが、そうではなかった。

1993年、元患者だった男性が院内で発砲した。その結果三人の医師が重軽傷を負った。

「自分はエイズ研究の実験材料にされた」

.と、犯人は供述したという。この事件のため、警備が厳しくなったそうだ。

米国で12月はホリデーシーズンと呼ばれる。職場や自宅でパーティーが開催され、みんなが浮かれているはずである。しかし今年の南カリフォルニアはちょっと違った。

ロサンゼルス東約100キロメートルのサンバーナーディーノで銃撃事件があった。障がい者支援施設で、職員がパーティーをしている最中に武装した二人が侵入。十四人が死亡し、二十人が負傷した。犯人の一人はこの施設の職員だった。

私が住む南カリフォルニアのオレンジ郡からは、決して遠くないサンバーナーディーノ。ここから、オレンジ郡にある職場へ通勤している人は多い。後で知ったことだが、今回の犠牲者の一人は、私の同僚の友人だった。まだ三十一歳のベトナム系女性だ。

さらに12月には、ロサンゼルス学校区に脅迫があった。1000に及ぶ学校が休校になった。ニュースでは、働く親が困るとも伝えていた。私が住むオレンジ郡はロサンゼルス郡に隣接している。学校区から各家庭に電話と電子メールが来た。

「ここは大丈夫です。学校は通常通り授業を行います」

この日、息子を学校まで送って行った。ちょっぴり心配だった。

「恐ろしくて、ショッピングモールや劇場へ行けない。人が集まる場所を避けるようになった」

こう言う人がいる。楽しいはずの12月だというのに。

これ以上、罪のない人が犠牲にならないように祈るばかりだ。

伊藤葉子(いとう・ようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。