第15回 バクテー - Bak kut the 肉骨茶 - マレーシア
バクテー - Bak kut the 肉骨茶 - マレーシア

久しぶりにかなり大荒れの春一番に見舞われた東京。その後の寒暖差の激しさからか、乾燥のせいか、ノドがいがらっぽい。私は…今さら言うまでもないが、ちょっとアレなんで、風邪なんてひかないはず。おかしいなぁなどと思いつつ、本格的に風邪にやられてしまう前に、パワーをつけて撃退しようと、ふだんはめったに行かない十条に足を運んだ。スタミナをつけたいとはいえ、体調イマイチなのでヘビーなものは欲しくない……そんなときにピッタリのメニュー、バクテー(肉骨茶)の専門店があるからだ。

十条駅前からすぐの路地に入って歩くことほんの2分ほど。店に入ったとたんに漂う香りに、心は一気にアジアにトリップした。際立つ八角をはじめとした香辛料と肉の渾然一体となった香りがもわんもわんしているその湯気だけでも元気になりそうだ。

マレーシアのソウルフードのひとつといわれているバクテーは、その名に漢字が使われることからもわかるように中国由来の料理。まだマレーシアが英国領だったころ、出稼ぎに来ていた中国人の労働者たちが、安く手に入れられる、わずかに肉が残っている解体後の骨を、さまざまな香辛料と共に煮込んだものがその起源とされている。

もちろん、今は骨にたっぷり肉のついたスペアリブなどが使われ、スタミナのつく薬膳料理として、中国系のマレーシア人を中心に在住の外国人や観光客にも人気の料理。肉だけでなく、内臓や、キノコなどの具が入ったものもあり、取り合わせや味付けは、店によって、家庭によってそれぞれ微妙に異なる。そんなポピュラーな料理なのに、なぜマレーシア人みんなに広く親しまれているわけではないのかというと、彼の国にはイスラム教徒が多く、彼らは豚肉を食べないからだ。

ちなみに、バクテーには肉や骨は入っているが、茶は入っていない。なぜ、料理名に「茶」の文字が入っているかについては、骨付き肉を煮込んだスープをお茶代わりに飲んだから……など諸説あるが、いまひとつはっきりしない。ただ、「茶」を「テー」と発音するのは、当時マレーシアに渡った中国人は福建省出身者が多く、この地域の方言である閩南語(みんなんご)から来ている。料理からちょっと話がそれるが、茶の名産地、福建省の港であるアモイから東インド会社を通じて海路でイギリスに運ばれた「茶」は、この「テー」の音と共に伝わり、英語の“tea”の語源となったとされている。

話を料理に戻そう。このバクテー、肉料理だが香辛料のおかげか、よく煮込まれているからか、意外にもさっぱりしている。肉はホロリと骨からはずれるほど柔らかく、その肉を、醤油を煮詰めたような甘みのあるソースにつけて食べる。卓上には、ちょい足し用の唐辛子やにんにくもたっぷり用意されている。そして、醍醐味はスープかけごはん。肉の旨味たっぷりのスープをごはんにかけて、ちょうどだし茶漬けのような感じでサラサラっと食べるのだ。もう、それはそれは……滋味あふれるおいしさ。カラダもあったまり、どうやら風邪も撃退できそうだ。

さて、このバクテーだが、実はシンガポールも発祥の地として名乗りを上げていて、ちょっとした論争にまでなっているという。醤油ベースのマレーシアのものは、その色から黒バクと呼ばれるのに対し、シンガポールのそれは白バクと呼ばれる通り、透き通ったスープにコショウを効かせた味らしいが、こちらはまだ食べたことがない。近いうちに、ぜひ食べ比べてみたいものだ。シンガポール風のバクテーを出す店を探さなくては……こうして食べ歩きはまた続くのだ。

◆肉骨茶 -バクテー http://www.bakuteh.jp/


凛 福子(りん ふくこ)/プロフィール
東京在住。日本とアジアを中心に世界各地を、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。新しい圧力鍋を手に入れてちょっと楽しくなっているところ。まだトライしてないけど、きっとバクテーもあっという間にできるはず。もうちょっとあったかくなったらピクニックもいいなぁ。もちろん、圧力鍋の時短メニューを持ってね!