第2回 何かが違う

フランスでは小学校は5年制。6歳で入学し、小学校1年生にあたるCP(Cours préparatoire) クラスは本格的に小学校生活に入るための準備クラスとして位置づけられています。次男はCPにあがるまではごく普通の子...
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フランスでは小学校は5年制。6歳で入学し、小学校1年生にあたるCP(Cours préparatoire) クラスは本格的に小学校生活に入るための準備クラスとして位置づけられています。次男はCPにあがるまではごく普通の子として扱われており、リーダーシップがとれる子で、小学校前なので成績も漠然としたものではありますが、聴き取り、アルファベットなどは普通とされてきました。鏡文字を書くこともありましたが、それは4~5歳の子供たちならそれほど珍しいものではありません。だから私たちもちっとも気にしていませんでした。

次男の生活は小学校入学を境に変化していきます。まず先生から呼び出される回数が増えました。授業に集中していない、授業中に遊ぶことが多い、立ち歩く、宿題をやってこない、という内容がほとんどでした。親なら誰しもまさか自分の子は、と思うものでしょうが、私たちも例外なく驚きました。だって家では兄よりも賢く立ち回り、まるで私たちの思考を読むかのように行動しているこの子が、学校の成績が思わしくないどころか、授業中に遊んでいるとは考えられなかったのです。私たちはショックで耳を疑いましたが、教室で見せられた練習ノートは落書きで埋めつくされています。中年の女性の先生には「どうも授業についていけていないようなのよね。また、怖い絵ばかり描いて、この子ほんとにだいじょうぶかなと思うことがあるのよ。もう一年CPに残って、しっかり学んだ方がいいと思うんですよね」と、優しい口調で言い渡されました。

ちゃんと内容についていけていないなら、もう一年準備学年にした方がいいかもしれないと、留年には賛成したものの、納得がいかない私たちではありました。知的能力は決して同年齢の子供たちと比べて劣っているわけではないのです。むしろ好奇心が旺盛で、「地球の中は熱いのにどうして熱で地球は爆発しないの? 」「ダイヤモンドはどこに行ってどうやってとるの?」「火山から出てくる溶岩は何度くらいなの?」としばしGoogle に頼らざるを得ない質問ばかりしてきます。

この子はひょっとしたら多動症なのかもしれないとか、学習障害かもしれないとか、様々な思いがよぎりました。しかし、先生はまず、うちの家庭における言語環境がフランス語の習得を妨げているのではないかと指摘されました。そのため、家庭でフランス語を使うことや、語彙を広げる努力をする、宿題は簡単なものを特別に出すようにするので子供と一緒に進めることなどを指導されたのです。しかし家庭でフランス語を使うことに私たちは抵抗がありました。家庭でフランス語を使い始めたら英語も日本語も使う機会がなくなってしまうからです。これだけは譲れなかったので家庭では英語と日本語を使い続けました。

長男の時も2年生くらいまでフランス語の読みには苦労したこともあり、長男が行っていたオルトフォニスト(発音矯正士)に行きましたが、なかなか効果があがりません。1年生が終わって次の学年に進めばきっと読めるようになるという期待は裏切られます。

私たちはADHD(注意欠陥多動性障害)を強く疑っていました。しかしゲームやカードを一緒にする限りでは、集中力自体には問題がないように見えたし、長い映画もじっとしてずっと見ることも、順番も待つこともできます。論理的に物事を考えることができ、何よりも独創性に富んでいます。7歳になる頃、私たちは何か違うのではないかと疑い始めるのです。

≪マイアット・かおり/プロフィール≫
フリーランス翻訳、フリーライター。新潟魚沼市出身。フランス・バスク在住。Nokia 携帯、iTunes、Microsoft 関連製品をはじめ、iPhone アプリなどさまざまなソフトウェア製品のローカライズ翻訳を手がける。3ヶ国語環境という負担がのしかかるかわいそうなふたりの子どもたちといつまで 経っても覚えの悪い夫の日本語教育に苦戦中。