2 生きるための決断とは/ペルー

あの大地震と津波が東北地方を襲った時、私は日本に里帰りをしていたため、ペルーでの報道がどんなものだったか直接は知らない。ただ地元有力紙のウェブサイトを見ると、地球の裏側で起こった史上まれにみる悲惨な光景に同じ地震国として...
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あの大地震と津波が東北地方を襲った時、私は日本に里帰りをしていたため、ペルーでの報道がどんなものだったか直接は知らない。ただ地元有力紙のウェブサイトを見ると、地球の裏側で起こった史上まれにみる悲惨な光景に同じ地震国として多くのペルー人が哀悼の意を表し、1日も早い復興を願うエールを送ってくれていたようだ。

福島原発事故については現在も報道されているが、NHKや共同通信、CNNで報道された内容を淡々と伝えるものが多い気がする。ちょうど5年に一度のペルー大統領選挙と時期が重なったことや、当地の原子力専門家が「ペルーは南半球に位置し風の向きも反対である。よって放射能の影響はほとんどない」と述べたこともあるのだろう。正直なところ遠い国の話なのだ。

そんなある日、利用したタクシーの運転手からこんな質問を受けた。「どうして日本人は海外に移住しないのか」と。世界には紛争や飢饉のために国を出る人はごまんといる。そこにいると殺されるから、将来に希望を持てないから、だから国外に脱出する。いくら故郷を愛していてもそれだけでは生きていけない。今自分で決断しなければ明日はやってこない。福島の状況も同じだ。なのになぜ海外に出ないのか?答えに窮した私は言葉や習慣の違いを挙げてみたが、「私の知り合いの日系人に貧乏人はいない。日本人はよく働くし、どこでも成功できるのに」と理解しかねるようだった。

稼げるならどこでも行く、そもそも政府や社会保障など当てにはしないというのが当然のペルー人ならではの素朴な疑問。目的地に到着したためそこで会話は終わってしまったが、私は今も彼を納得させるような明確な理由を導き出せてはいない。

原田慶子(はらだ・けいこ)/プロフィール
ペルー・リマ在住フリーランスライター。日本人の知らないペルーの魅力を多方面に発信中。
ウェブサイト:http://www.keikoharada.com/