第3回 読める文字はO とX

小学校1年生ですでに落第してしまった次男には、私たちはすこし落胆しつつも、驚かされることばかりでした。できないことは読めないということだけ。理解力はあるどころか、こうすればこうなる、こうやらないとこれができない、という推...
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小学校1年生ですでに落第してしまった次男には、私たちはすこし落胆しつつも、驚かされることばかりでした。できないことは読めないということだけ。理解力はあるどころか、こうすればこうなる、こうやらないとこれができない、という推理力、観察力にはすぐれています。人の見ていないところも見逃しません。また、朗読が課題になると、家に帰って音読します。音読はかなりスムーズですが、時々単語1つを丸ごと取り違えます。これは朗読にはあり得ない間違いで、私たちはもしかしたら教科書を丸憶えしているのではないかと疑いはじめました。その疑いは当たります。教科書がなくても彼はほとんどすべてを覚えていて読めるのです。教科書を見ていないのです。

しばらくして読めないのは限られた文字なのではないか、というのが分かってきました。読める文字はOとX、この2つは間違えません。その他Aもほとんど間違えません。間違える文字はY、T、S、P小文字のbとd、G、K、JとLも苦手なようです。私たちはこれらの文字に一定の法則があることに気づきました。

まず読める文字のOとXは上下左右ともに対称です。回してみてもひっくり返して逆にしても同じです。この2つは絶対に間違うことはありません。アルファベットの始まりAは他に似ている文字がありません。Aも間違わないで読める文字のひとつです。よく間違える文字はYとT、Pと小文字のd 、JとL、これらはいずれも左右のみが対称で上下は対象ではありません。今でも書き方が分からないのはSです。これらはすべて小さなころから鏡文字として逆に書いていました。鏡文字は健常児にもよく見られるものなので、特に書いていたからといって必ずしも即ディスレキシアには結びつきませんが、10歳になった今も時々間違えています。何より驚くのは自分の名前にはdが入っているのですが、自分の名前のdをpと間違えること。dはさかさまにすればpになります。

この問題に加え、頑固な性格も手伝ってなかなか特別指導はうまくいきませんでした。先生も半分読めないこと自体疑っているようで、視力検査を勧められます。目に問題があるから読めないというわけです。しかし私も家族も、直感的に彼の目に問題があるとは到底思えません。遠くの人の顔もよくわかるし、小さな飛行機だって見逃しません。

視力検査に付き添いましたが、思った通りの結果となりました。まずはアルファベットを使った視力検査。これは惨憺たる結果に終わりました。かなり大きな文字も読めないのです。私は医師に文字を読むことに問題があるから、文字を使った検査ではないものを希望しました。すると文字を使ったものでは0.1にも満たなかったのに、絵を使った検査での視力は1.5を超えていました。

マイアット・かおり/プロフィール
フリーランス翻訳、フリーライター。新潟魚沼市出身。フランス・バスク在住。Nokia 携帯、iTunes、Microsoft 関連製品をはじめ、iPhone アプリなどさまざまなソフトウェア製品のローカライズ翻訳を手がける。3ヶ国語環境という負担がのしかかるかわいそうなふたりの子どもたちといつまで 経っても覚えの悪い夫の日本語教育にも苦戦中