第1回 パラダイスビーチの椰子の木

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連載:『サモアの想いで』
文・写真:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)

南太平洋の小さな国サモアの南端、レファガ村に位置するパラダイスビーチ。ここは、1952年にゲーリー・クーパー主演の映画『RETURN TO PARADISE (楽園に帰れ)』のロケ地になったという海岸だ。サモアで暮らした4年間、何度ここに足を運んだことだろう。デッキチェアもビーチパラソルもない、何百年前と大して変わらないだろう自然のままの浜である。

この浜で週末のたび、子どもたちといっしょに波と戯れ、釣りを楽しみ、遊び疲れると読書にふけった。真青な空に、ぽっかり浮かぶ白い雲、エメラルドグリーンの海を背に、波音を聴き、海風に吹かれながら、まどろむ心地良さは一生忘れない。村人が、浜の近くでとったばかりの、ココナツやバナナ、パパイヤをそっと差し出してくれた。もちろん、何の見返りを求めることもなく。海を見ながらかぶりつくその味は、格別だった。今思い出すと全てが夢のようだ。

ほとんどの椰子の木が、真青な空に向かって生えているというのに、1本だけ、“掟破り”のように、太平洋の波に戦いを挑むように茂る椰子の木があった。家族そろって日本をあとにした我が身に重ねて、ビーチファレから長い間その椰子の木を見ていた日のことを、ずっとずっと覚えていたいと思う……。

注:ビーチファレ
浜に設置された休憩用の場所。サモアの伝統的な家“ファレ”と同じく、壁はなく椰子やバナナの葉などで覆った屋根と柱だけの簡素な建物。

≪椰子ノ木やほい(やしのきやほい)/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年、受験のない世界での、のんびりゆったり子育てと、シンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住。4年間、南国生活を楽しむ。思春期に向かう子どもたちにとっての、より適切な環境を模索する中で、2001年より、アメリカ合衆国、ミシガン州に在住。遠い昔のことになりつつある、サモアでの日々を、ここに記しておきたいと思います。関連サイト:我が家が日本を脱出してからの記録「ぼへみあん・ぐらふぃてぃ」、海外在住ライター、フォトグラファーを支援するサイト「海外在住ライター広場」