第5回 真夏の夜のクリスマスキャロル

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連載:『サモアの想いで』
文・写真:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)

「マヌイア レ キリシマシ マヌイア レ キリシマシ マヌイア レ キリシマシ マレ タウサガ フォウ ♪♪」

クリスマスソングが聞こえてくる今ごろになると、サモアでクリスマスイブの夜に聴いた、サモア語のコーラスを想いだす。アエイオウと5つの母音から成るサモア語は、あいうえおの日本語の響きと似ていて私の耳には馴染みやすく、そのコーラスは心地よく響いた。

赤道近くに位置するサモアは常夏の国。日本で暮らしてきた者にとって、クリスマスの頃に暑いというのには、当初かなり違和感を感じた。しかし、そこには暑いからこそのクリスマスがあった。サモアの国民のほとんどがキリスト教徒というお国がら、クリスマス行事は避けては通れない。我が家はクリスチャンではないものの、何でも見てみよう、やってみようの精神で、誘われればいろんな教会行事に顔を出した。イブには毎年、大家さん一家が “クリスマスキャロルの配達ツアー”に誘ってくれた。

“クリスマスキャロルの配達ツアー”と私が呼ぶのは、イブの夜、大家さんの大家族が所属する教会の一行が集まり、バスや車に便乗して、親戚縁者の家をクリスマスキャロルを歌いながら夜通し巡業するというもの。サモアの家には壁がない。開けっぴろげで、柱と屋根しかない家の構造は、外で歌うコーラスも家の中にいながらにして聴けるので好都合だ。

大して練習するわけでも、楽譜が読めるわけでもなく、コーラスのパートを決めるわけでもないのに、1人が歌いだすと、そこに混じり重なっていく声が自然に美しいハーモニーを奏で、見事なアカペラとなる。歌声はどんより湿った生温かい空気に溶けて、夏の夜空に響きわたった。

今、我が家は北米の中でも激寒のミシガン州に暮らす。目の前は銀世界。雪景色の中、クリスマスイルミネーションがキラキラと飛び込んでくる。刺すような空気を感じながらも、目を瞑れば、あの美しいコーラスが聞こえてくるような気がする。

≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年、受験のない世界での、のんびりゆったり子育てと、シンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住。4年間、南国生活を楽しむ。思春期に向かう子どもたちにとっての、より適切な環境を模索する中で、2001年より、アメリカ合衆国、ミシガン州に在住。関連サイト:サモア時代のリアルタイムを伝える、「Talofa lava from Samoa」我が家が日本を脱出してからの記録「ぼへみあん・ぐらふぃてぃ」、海外在住ライター、フォトグラファーを支援するサイト「海外在住ライター広場」