第19回 「自然との共生」を懐かしむ

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連載:『サモアの想いで』
文・写真:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)

常夏の国サモアには、バケツをひっくり返したような雨が延々と続く雨季がある。その湿度といったら半端ではなく、洗濯物にまでカビがはえるほどだ。ジトジトする暑さに耐え切れず、「今日のシャワーは雨水にしておこう」と、どしゃ降りの外に飛び出した日のひとコマ。

雨が降り続く時期には、「雨が降っていない」という“つかの間”も「ありがたい」と感じた。さわやかな貿易風のそよぐ乾季には、さらに気持ちのよい涼を運んでくれるスコールの“降る雨”にも感謝できた。

南の島サモアでは、こうした自然の恵みのおかげで、花は次々に咲き乱れ、芝は瑞々しく、南国独特のフルーツはたわわに実をつけていた。ほとんどの村の水源はタンクに貯めた雨水だが、豊富な雨量のおかげで、水道設備のない地域もなんとか水のある暮らしができている。もっとも「自然に頼る」しかない水が、人々にとって貴重であることにかわりはない。

こうした「自然との共生」が当たり前だったサモアを離れ、ミシガンで10回目の夏を迎えている。

春から夏のあいだ、ハウスオーナーは庭の芝を青々とさせ、庭木を美しく保つことに躍起になる。雨乞いに頼らなくても良いように、庭には潅水システムが導入されている家も珍しくない。少々、水道代が高くつこうとも、庭じゅうの地中に埋められたホースから定期的に散水される。クリーンな水道水はときに、夕立ちの雨の中でもまかれている。スイッチを入れる手間さえ惜しみタイマーでプログラムされているからだ。

サモアで暮らした経験を持つ私にとって、美しさを保つためとはいえ、除草剤入り肥料をたっぷり散布し、手を抜くための無駄な放水をすることがつい滑稽に見えてしまうどころか、人間のエコイズムとさえ感じてしまう。根本的な価値観がちがうここでは、人工的なあの手この手を「不自然」と感じる人は少ないかもしれない。逆に、サモアの人々が「自然との共生」を意識したうえで自然に逆らわない暮らしをしていたとも思えないが、自然に逆らわない、風土にあった暮らしを営むことは、先進国ほど難しいことなのかもしれないと思うこの頃である。

≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年のんびりゆったり子育てとシンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住し、4年間の南国生活を楽しむ。2001年より、アメリカ合衆国・ミシガン州在住。HP「ぼへみあんぐらふぃてぃ」、サモア在住時の暮らしを綴った電子本『フィアフィアサモア』はでしたる書房で発売中。世界各地からの子育て事情を伝える『地球で子育て! 世界のお父さん・お母さんバンザイ』 サイト運営・管理人。