第2回 産めよ増やせよ!?

1.95――これは、2010年のノルウェーにおける合計特殊出世率。つまり、女性1人が生涯に出産する子どもの数の平均です。ちなみに日本は1.39人。確かに周りを見てみると、3人以上子どものいる家庭も少なくないですし、先日は...
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1.95――これは、2010年のノルウェーにおける合計特殊出世率。つまり、女性1人が生涯に出産する子どもの数の平均です。ちなみに日本は1.39人。確かに周りを見てみると、3人以上子どものいる家庭も少なくないですし、先日は「有名人には4人の子持ちが多い」という雑誌記事も目にしました。しかし、物価の高いノルウェーでたくさんの子どもを育て上げられるのでしょうか?

実は、ノルウェーで子どもを育てるのはなんとも安上がりなのです。

まず、妊娠から出産までの医療費は、すべて無料。また、生まれてきた子どもも、12歳までは医療費無料、歯科治療は18歳まで無料です。

今冬、スケート初挑戦の息子。スノースーツにスノーブーツ、ウールの下着と靴下に、同じくウールのセータとズボン。もちろんスケートにスキー用品も。出費がかさみます。

産休・育休は47週(約11ヶ月)で、その間も給料が満額支払われます。受取額を80%に減らして、57週(約13ヶ月)取得することも可能です。産休中も出産前と同じ収入レベルを保てるというのは、物価の高いノルウェーではとても大切なポイント。そして、ノルウェーは世界で始めて父親休暇を導入した国だということをご存知ですか? 47週または57週の産休のうち、12週(約3ヶ月)が父親に割り当てられています。

日本で子どもを育てる際に頭が痛いのは……なんと言っても教育費。しかしノルウェーでは、教育費は原則無料です。義務教育はもちろん、義務教育以降の高校・大学でも、ごく一部の私立大学を除いて学費は無料。高校や大学では授業登録費や教科書代などが必要になりますが、その額はたかが知れています。一人暮らしをするとなると生活費がかかりますが、子どもたちが自分で学生ローンを組んで、自分で返済していきます。ノルウェーでは、高校を卒業(またはドロップアウト)すると、一人前の大人。経済的にも独立します。

唯一、日本並みにお金がかかるのが保育園と学童保育。こちらは、地域や親の収入によって異なりますが、日本円で3万円台が一般的です。学童保育は地域差が大きく、1万円台で毎日通わせられるところから5万円以上かかってしまうところまであります。

ノルウェーには受験制度はなく、高校・大学への進学は、中・高での成績と卒業試験の結果で振り分けられます。都会にはいわゆる塾も存在しますが、通っている子どもはごく少数です。習い事の種類もさほど多くなく、スポーツは地域の少年スポーツ団で、音楽や演劇などは自治体が運営する文化センターで格安で習うケースが大半です。

日本でも話題になった子ども手当てですが、ノルウェーの子ども手当ては、親の収入にかかわらず、子どもが18歳になるまで月額1万3,000円程度です。思いのほか少ないかもしれませんが、上に挙げたように子育てにはあまりお金がかからないうえ、進学のための蓄えも不要なので、この程度で十分なのかもしれません。

ノルウェーで子育てしていて唯一「高い!!」と思うのが、被服費です。冬が長く厳しいため、値の張る防寒服や靴を買い揃えなければなりません。子どもの成長は早く、ほぼ毎年一式新調するとなると、数万単位のお金が飛んでいきます。

こうやって社会に育てられた子どもたちは、ひとたび社会に出ると、今度は納税者として次の世代を支えます。日本では少子高齢化が問題になっていますが、社会保障の手厚いノルウェーでは、若い世代の人口が減ってしまっては、現行の社会システムがまったく成り立たなくなってしまうのです。

(2012年2月8日のレート、1ノルウェークローネ=約13.35円で計算)

御供理恵(みともりえ)/プロフィール
およそ2ヶ月の間太陽が昇らない「極夜」も明け、心なしか人々の笑顔も明るくなったような気のする北極圏在住。日本に帰ってママ友の話を聞くたび、ノルウェーの子育ては金銭的にも精神的にもなんとのんびりしたものか、と改めて実感する。ただ、日本と比べると、何事においても選択肢が少ないのはちょっと残念。ウェブサイト:Arctic Rainbow