第2回 暗い通学路

 「暗い」と言っても、家がまばらで人通りが少ないとか、鬱蒼とした森を通るというわけではありません。お日様が出ていないから、視覚的に「暗い」、明るくないのです。地球丸でも何度も触れたのでご存知かと思いますが、北ドイツの11...
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「暗い」と言っても、家がまばらで人通りが少ないとか、鬱蒼とした森を通るというわけではありません。お日様が出ていないから、視覚的に「暗い」、明るくないのです。地球丸でも何度も触れたのでご存知かと思いますが、北ドイツの11月から2月頃までの日照時間は短く、特に冬至前後の期間は、小学生が朝学校へ向かう時間も真っ暗な日が続きます。単に緯度だけで比較しても、ドイツ全体が日本の北端よりさらに北に位置していることを考えれば、ドイツの日の短さがご想像いただけるかもしれません。

この頃になると、ドイツのお母さんたちは、子どもの着ているものに「リフレクター(反射板)」がきちんとついているか確認します。このリフレクター、ご存知の方も多いかと思いますが、それ自体は発光せず、車などのライトが当ると光を反射し、暗闇でもピカッと輝いて、人や動物、または障害物があることをドライバーに知らせるものです。晩秋から冬のドイツでは、リフレクターなしで通学させたり、夕方外遊びさせることは交通事故につながり、とても危険です。車を運転していると、身にしみてよくわかりますが、暗い中でリフレクターをつけていない歩行者や自転車を見分けるのはとても難しいものです。それに加えて日本と同様、ドイツでも冬用の上着は暗色のものが多く、暗闇からすっと道路に出てきた影など、瞬時に発見するのは不可能に近いのです。また、ドイツの道路は日本に比べ照明が格段に少なく(ドイツで運転を始めた頃は慣れるまで大変だったことを今でも覚えています)、頼りになるのは車のライトとリフレクターだけだと言っても過言ではありません。

さて、子どもたちをどのように「リフレクター武装」させるかご紹介しましょう。まず小学生が毎日しょって通学するランドセルの外側にあるふた部分などには、銀色のリフレクターが、ランドセル全体のデザインを損なわないよう、それでもかなり大きく目立つよう貼ってあります。これで後姿は目立つようになりましたが、前から見た姿も肝心です。ランドセルのベルト部分にもリフレクターはついていますが、小さく、冷え込む冬の装備として襟巻きなどをすると隠れてしまうこともあります。そこで活躍するのが、リフレクター付ベストです。日本のJAFに相当するドイツ自動車連盟ADACは、数年前から蛍光色の黄色をベースに、腹部から背中にかけてリフレクターの帯がついたベストを、ドイツ全国の小学校に配布する活動を始めました。これは通学時でなく、散歩や外遊びにも使えると好評です。また、腕や足首に簡単に巻けるリフレクターも売っています。マジックテープで止め外しができるので、どんな服装をしていてもその上から装着することができます。最近では、もっと目立ったほうが良いと、電池によって点滅するライトのついたベストやベルト、靴なども登場、散歩の際、犬につける人もいて、運転する身としては、非常に助かっています。これ以外にも教会や各種団体などが秋から冬にかけて、さまざまなかたちのリフレクターを用意して配り、ドイツのお父さんお母さんたちは、子ども(もちろん大人も)の着る上着に縫い付けたり、ブローチのように帽子にとめたり、テープで遊具に貼り付けたりして、安全を確保しているのです。

子どもが外出するたびに「リフレクター」を連発していたら、先日、夕方散歩に出た際に、子どもに指摘されてしまいました。「ママ、人のことはよく気が付くみたいだけど、自分はどこにもリフレクターつけてないじゃない!」見れば、私は黒い帽子に黒いジャケット、ジーンズに黒い靴……と暗闇でまったく目立たない上、反射するものなど何もつけていないのでした。心配した子どもたちが周りをガードしてくれ、安全に散歩できましたが、反省することしきりでした。

リフレクターのことを気にしなくて済むようになると、ドイツの長い冬もやっと終わり。特に冷え込む今日は、その日が本当に待ち遠しいです。

たきゆき /プロフィール
レポート・翻訳・日本語教育を行う。1999年よりドイツ在住。ドイツの社会面から教育・食文化までレポート。ドイツ人の夫、10歳の長男、8歳の長女、5歳の次女とともにドイツ北部キール近郊の村に住む。今年の冬は雪もなく比較的温かい雨の日続きで終わるかと思いきや、ここへ来て寒波到来。ガレージに停めている車まで凍る始末……。