第3回 校外学習 ラオスの場合

ラオス滞在最後の年の帰国直前に、長女はインターナショナルスクールでフィールド・トリップ(校外学習)に参加した。小学部のときも、近くの村で宿泊体験はあったが、グレード7(日本の中学2年生)の今回はいきなり5泊6日。しかも、...
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ラオス滞在最後の年の帰国直前に、長女はインターナショナルスクールでフィールド・トリップ(校外学習)に参加した。小学部のときも、近くの村で宿泊体験はあったが、グレード7(日本の中学2年生)の今回はいきなり5泊6日。しかも、国内線飛行機を使っての移動だ。

この校外学習は「ルアンパバーン(※)の民家に泊り、地元の小学校校舎建設の基礎工事を手伝い、川で筏を作ろう!」という、何ともワイルドな旅。飛行機が苦手な長女にとっては、小さなラオスの国内線飛行機に乗るということも恐怖だった。現地到着の日の夜に1度だけ先生の携帯を通じて話すことができたが、途上国の山奥で今頃どうしてるだろうかと、この5日間は親の私も身の細る思いだった。

娘の話では、「サソリが出たよ。それに、寝床には巨大なクモも。お風呂には5日間1度も入ってないし、歯も磨いてない。だって、きれいな水がないんだもん。服は毎日泥だらけになったけど、川で洗って干したのを翌日生乾きで着たよ。部屋には電気も鍵もなかった。懐中電灯は役に立った。トイレは外にあって、夜中に行ったら後ろから犬がついてきて怖かった。それと蚊帳には大きな穴があったから意味ないよね。」想像を絶する壮絶な5日間だったようだ。

対して、日本の学校の宿泊学習はというと、「宿泊訓練、超最悪ぅ。体育館で寝たし、風呂は汚いし、カヌー漕ぐのもだるかったしぃ」。帰国直後に、そんな話を聞いた長女は「体育館で寝ることの何が最悪なんだろう。風呂があるだけまし。カヌーなんて大したことないじゃん!」とあきれていた。長女はカヌーではなく筏に乗った。その筏は手作りだ。筏の材料の竹で手を刺し、大出血してクリニックに運ばれたクラスメイトもいたらしい。さらには、できた筏で漕ぎ出す川は流れも急で深いときた。長女の乗った筏は、途中で一部分解し、沈没しかけた。救命道具などない。(そういえば、保険は入っておくようにという手紙は来ていた。)とにかく、日本の常識では考えられない過酷な校外学習だった。

長女は今朝がた、帰国して初めての宿泊学習となる修学旅行で、京都・大阪へと発った。その旅行のしおりには、分単位で旅程が書かれ、持ってくるもの・持ってきてはいけないもの、緊急時の連絡先、やってはいけないことなど、事細かに書かれていた。長女は、それを見て「こんなに決めなくても大丈夫なのにね」と、またあきれていた。ラオスでの経験は彼女を強くしたことは間違いない。ただ、「あれぇ、下着が足りないかも。でも、同じのずっと着てても死なないし」というのはちょっと困りもの。きっと、歯ブラシを忘れたら、歯も磨かず2泊3日を過ごすのだろう。

※ルアンパバーン:ラオスの古都。市街地自体がユネスコの世界遺産に指定されている。寺院やナイトマーケットなど多くの見どころがあり、近年海外からの観光客も増えてきた。早朝にはオレンジ色の袈裟を着た托鉢僧の列が見られる。ちなみに長女が宿泊したのは、ルアンパバーン空港から車(トゥクトゥクという三輪タクシー)で、さらに2時間ほど移動したところで、夜は完全な闇となる究極の田舎。

村岡桂子/プロフィール
2007年から2010年までラオス滞在。2008年より、ウェブサイトや雑誌に寄稿。現在は山口県在住。小学校非常勤講師、翻訳家、フリーランスライター。