第5回 気になる成績

夏休み終了とともに小学校3年生になった長女は、最近自分の成績をかなり気にするようになりました。それもそのはず、3年生からは成績が6段階評価になり、自分がどれだけできるか、がんばったかが、数字になってはっきりとあらわれるか...
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夏休み終了とともに小学校3年生になった長女は、最近自分の成績をかなり気にするようになりました。それもそのはず、3年生からは成績が6段階評価になり、自分がどれだけできるか、がんばったかが、数字になってはっきりとあらわれるからなのです。

ドイツの学校は前期後期制なので、学校年度の半分が終了した1月の終わりと1年が終了した夏休み前に通知表が手渡されます。1・2年生の間は、「概ねよくできている」「たまにできていないこともある」「ほとんどできていない」の3段階評価が、生活態度からそれぞれの教科の詳細項目に示されていて、子どもが得意とする点、もう少し努力が必要な点などが、大体把握できるようになっています。とはいえ、まだ学校生活を始めたばかりの2年間は子どもも親もそれほど神経質にならず、不得意なことが少しくらいあっても、まぁそのうち……と構えていることがほとんどのようです。

でも、3年生になると、この雰囲気ががらっと変わります。通知表が1から6の6段階評価(成績の良い順に1→6、実際は1から5までが使われ、6がつくことはごくまれ)になることを受け、学校で行われるテストなどすべての項目に数字で評価が下されるようになるからです。テストには得点が記されるだけでなく、その隣に評価の数字が書き込まれます。また、ノートのとりかたも定期的にチェックされ、この評価も6段階でついてきます。図工でも描いた絵や工作のひとつひとつが評価対象となります。それぞれの評価の隣には必ず教師のサインが入れてあり、親も評価について確認した証拠にサインをして返却することになっています。

この背景には、将来の進路のかなりの部分が小学校4年生で決まってしまうことがあります。連邦制をとっているドイツの教育制度の全容を説明するには紙面が足りないので、要点のみ記しましょう。ドイツでは大部分の小学校は4年制で、卒業後は、将来大学進学を希望する生徒がギムナジウムへ、職業訓練を最終的な目標とした基礎教育を受ける生徒は、基幹学校(Hauptschule)や実科学校(Realschule)へ進学することになります。この学校制度が、マイスター制度がまだ有効に機能していた古い時代を反映しており、学業や職業の多様化した今の時代に即していないことから、すでに何年もかけて改革が進められているのです。実科学校からギムナジウムへの転入プロセスを簡易化したり、異なる体系の学校を統合した総合学校や共同体学校を導入したりという改革は私の住む地域でも行われています。それでも、順当に行けば8年後(または9年後)には大学入学資格試験(アビトゥア)が取得できるギムナジウムになんとか進ませたいという希望を持つ親はいまだに多いのも事実です。

ギムナジウムへ入学できるかどうかは、4年生前期までの成績で決まります。通知表とともに、先生が生徒をどのタイプの学校へ推薦するか示した決定票が手渡されます。これを基に入学したい学校を選び願書を提出し入学許可を得ますが、推薦内容と希望が異なるなどの特別な場合を除き、推薦があれば入学はほぼ許可されるので、入学試験などは特にありません。

学校の成績が大きく進路を左右するわけで、いきおい小学校4年生の受けるプレッシャーも大きくなります。テストを返してもらったり、通知表を受け取ったりするたびに、泣き出してしまったり、うなだれたりする子どもも多いと聞きます。友人の子どもはテストの際、いつも腹痛を起こし、小児科でストレス性胃腸炎と診断されたそうです。

小学校6年間を進路の心配などすることなく楽しんだ記憶のある私としては、自分の子どもにもあまりプレッシャーを感じてほしくないので、わが家では成績についてあまり口に出さないようにしています。よくできたときはもちろんほめますが、できなかった時は、できなかったのがどこか一緒に話し合うことはあっても、成績自体をとやかく言うことはありません。だって、テストの右下に太いペンで大きく書かれた数字を一番気にしているのは、他でもない本人なのですから。

長女が今日返してもらったテストには評価のとなりに先生からの短いメッセージが書いてありました。聞けば、テストの内容に直接関係ないけれど、普段よく努力している点を先生がひとりひとりに「おほめのことば」として書いてくれたそうです。先生だって数字だけで味気ない「評価」の連続にはうんざりすることがあるのかもしれませんね。

たきゆき /プロフィール
レポート・翻訳・日本語教育を行う。1999年よりドイツ在住。ドイツの社会面から教育・食文化までレポート。ドイツ人の夫、11歳の長男、8歳の長女、6歳の次女とともにドイツ北部キール近郊の村に住む。秋休みが終わらないうちから、店先にはもうクリスマス用のお菓子がところせましと並べられ、なんだか追い立てられるような気分。12月はクリスマス会などイベント続きになるので、11月のうちにプレゼントを用意して……と早くも年末ムードの我が家です。