第3回 いわきの誇り、小名浜産かつを

 
 
「こんなにおいしいかつを、今までに食べたことないよ!」
夏に他県からいわきに遊びに来る友人に決まって味わってもらっていた、小名浜自慢のかつを。あまりのおいしさに感激し、あの味が忘れられなくてまたすぐ食べに戻って来...
LINEで送る

復興メニューとして出ていた「かつを炙り重」800円。小名浜の老舗・割烹一平にて

「こんなにおいしいかつを、今までに食べたことないよ!」

夏に他県からいわきに遊びに来る友人に決まって味わってもらっていた、小名浜自慢のかつを。あまりのおいしさに感激し、あの味が忘れられなくてまたすぐ食べに戻って来る。

刺身、たたき、煮付け、揚げびだし、アラ汁など調理方法は豊富で、毎年、初水揚げが始まる5月から戻りがつをの9月頃までいわき市民の食卓を楽しませてくれる。親潮と黒潮がぶつかり合う常磐沖は”潮目の海”とも呼ばれ、世界有数のかつをの漁場として知られており、小名浜や中之作漁港は全国でもトップクラスの漁獲量を誇る。

震災があった2011年、津波被害に合わせて放射能問題……。

数ヶ月間漁の自粛が続いていた。

そんな中、例年より3ヶ月以上遅れの8月29日早朝、震災後初となるかつをの水揚げが震災の爪跡残る小名浜漁港で行われ、これぞ小名浜!な威勢のいい声が飛び交った。地元のまき網漁船・第二十二寿和丸が宮城県気仙沼沖で漁獲し、小名浜漁港に運んできたものだ。

待ちに待った水揚げだったので、テレビ局や新聞記者など多くの報道陣が駆けつけた。

わたしの両親は小名浜漁港近くで、発砲スチロール製品の卸し業をしているため、漁業とは深く関わっている。だから今まで仕事の手伝いで水揚げ現場を幾度となく見てきたのだが、この日ほど興奮し感動したものはなかった。

18トンのかつをは漁船からベルトコンベアで小名浜魚市場に運びこまれ、小小~特大サイズに選別された。その後すぐ、いわき明星大学に運ばれ放射性物質を測定するサンプリング調査が行われた。検査結果は「放射性物質不検出」。

そのためその日の午後には地元の鮮魚店やスーパーの店頭に「小名浜産かつを」が並んだ。


「小名浜産かつを購入!」「小名浜産かつをが売り切れた」などとツイッターでつぶやく地元民の声が多く聞かれた。

地元ではこのように盛り上がりをみせていた半面、東京築地では100円/キロという捨て値しかつかなかった。

福島第一原発から何百キロも離れた安全だとされる海域で漁獲したものでも、産地が「福島県産」「小名浜産」と表示されただけで県外では買い手がつかないという厳しい現状。まったく同じ海域で漁獲したものを千葉県で水揚げすれば「千葉県産」と表示され通常価格で取引される。まったくもって理不尽な話だ。

2012年の去年は小名浜漁港では10回、中之作漁港でも震災後初の水揚げが一度行われたが、この時も築地では捨て値の105円/キロだった。

漁業の復興。

産地表示の問題や風評被害など大きな課題が残されてはいるが、地元の人々は両漁港に活気が戻ることを切に願い、今年もまたあのおいしい小名浜産かつをを食べれることを心待ちにしている。

大堀功美子/プロフィール
福島県いわき市小名浜出身、オーストラリア・ゴールドコースト在住。2006年よりオーガニックコンシェルジュとして五感で楽しめるオーガニックを広めるために、メディアへの出演、新聞や雑誌、ウェブマガジンなどへの寄稿、ワークショップを開催している。