第5回 ディスレキシアの症状

前回でご紹介したディスレキシアの典型的症状は、ごく一部の例ですのでこれらがすべて当てはまるとしても、必ずしもディスレキシアとは限らないことをご了承ください。

また、前回は英語の例を紹介しましたが、日本語環境の場合にも当...
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前回でご紹介したディスレキシアの典型的症状は、ごく一部の例ですのでこれらがすべて当てはまるとしても、必ずしもディスレキシアとは限らないことをご了承ください。

また、前回は英語の例を紹介しましたが、日本語環境の場合にも当てはまりますし、日本語でもディスレキシアは発症するとされています。ただ、象形文字である日本語では、漢字の場合には特に文字を形としてとらえることができるため、なかなか読めていないことに気づきにくい、したがってディスレキシアであることに気づかないことがあるという点があることに注目していただきたいと思います。

次男が小さなころ、よく遊びでかるたとりをやりました。長男はすでにかなりひらがなも読めるようになっていました。長男は音文字を結びつけて覚えてとっているようでしたが、不思議なことにアルファベットも読めない次男は長男よりもかるたをとるのが速いのです。もちろんすべて覚えていないことを知っていたので、ひらがなを覚えてもらえるようにまず文字を見せてからとらせていました。すると文字を読むのが苦手なはずの次男は文字を見ながらすぐにとっています。なぜ日本語だとすぐに認識ができるのか。私は不思議に思いました。

でもよく考えると、日本語には左右対称となっている文字があまりありません。似ているひらがなには「わ」と「ね」、「は」と「ま」、「あ」と「お」などがありますが、これらはみな同じ方向を向いています。「い」と「り」も間違えやすいですが、形は違います。これらはディスレキシアでなくても子供が間違えやすい文字です。次男は結局ひらがなを絵ととらえており、そのまま絵として認識していたようです。

ディスレキシアであることを確認するために受けた眼科の検診ではCの文字を使ったお決まりの検診がありました。驚くことに遠くの飛行機も見逃さない次男の視力は0.1以下。つまりCの文字が上下さかさまや横になったものがすべて認識できなかったのです。眼科医が不審に思い絵を使った子供用の検診シートを使い、再検診した結果は両目1.5以上でした。

また日本語は1文字につき音がひとつあてられており、組み合わせる必要がありません。これもディスレキシアの人たちにとってはとてもうれしいことなのです。英語やフランス語は母音以外はアルファベットを2文字合わせないと読むことができません。その組み合わせがなかなか難しいのです。さらにフランス語は読みが規則的ですが、英語はとてもスペルに例外が多い言語です。文字と音が一対一の日本語はディスレキシアの人たちにとっては学びやすい言語といっていいでしょう。特に漢字は読みやすいようです。とはいってもディスレキシアの重症度は人により異なりますので、日本語なら読みやすい人もいれば、日本語の場合にもまったく読めない方ディスレキシアの方もいらっしゃるようなので千差万別です。

過去の文献で非常に興味深いものにWydell TNとButterworth Bの「A case study of an English-Japanese bilingual with monolingual dyslexia.」があげられます。日本語に訳すと「英語・日本語のバイリンガルにおける単一言語のディスレキシア事例について」となりますが、英語と日本語のバイリンガル環境において、英語のみにディスレキシアが発症した例です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10384738

これは極端な例といえますが、象形文字である日本語はディスレキシアの人にとってはヨーロッパ言語と比較して読みやすい言語であるのは間違いなさそうです。

マイアット・かおり/プロフィール
フリーランス翻訳、フリーライター。新潟魚沼市出身。フランス・バスク在住。Nokia 携帯、iTunes、Microsoft 関連製品をはじめ、iPhone アプリなどさまざまなソフトウェア製品のローカライズ翻訳を手がける。Tumbler日本語ローカライゼーション公式コンサルタント。フランス語、英語、日本語の3ヶ国語環境という負担がのしかかるかわいそうなふたりの子どもたちといつまで経っても覚えの悪い夫の日本語教育にも苦戦中。