第5回 核爆発に備える……

米国カリフォルニア州ベンチュラ郡の緊急計画評議会が、子どもを持つ保護者を対象に次のような教育プログラムを立ち上げた。

ロサンゼルス周辺でのテロリストによる核兵器使用を想定して、有事の際に適切な避難行動がとれるように情報...
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米国カリフォルニア州ベンチュラ郡の緊急計画評議会が、子どもを持つ保護者を対象に次のような教育プログラムを立ち上げた。

ロサンゼルス周辺でのテロリストによる核兵器使用を想定して、有事の際に適切な避難行動がとれるように情報を提供するものだという。

プログラムの関係者は「あなたがどこにいようとも、屋内に避難するのが安全です」とコメント。避難の手順とし「建物の中に入る、中にとどまる、引き続き注意を払う」を強調して、公的機関が避難警報を解除するまで屋内にとどまるよう告げている。

子どもが学校にいる時間帯に核兵器の爆発が起こった場合には、あわてて迎えに行って家へ連れて帰るよりも、子どもを学校内のシェルターに避難させるべきだと説く。

ベンチュラ郡では、プログラムを開始した理由について「私たちは住民を守る責任があります。核について住民が知ることは重要なことだと考えています」と述べている。

核兵器の爆発と原子力発電の事故は同じではない。いっしょにしてもいけない。

けれども、私が生まれ育った日本では、東日本大震災で原子力発電所の事故があった。今も収拾のメドは立っていない。人々の怒り、不安、苦しみが様々な報道を通じて、海外へも伝わってくる。

これまで、この連載では、日本人である私が「行き過ぎ」でないかと感じた米国内の事件を中心にレポートしてきた。

しかし、ベンチュラ郡がこのようなプログラムを作ったことを、私は「やり過ぎ」の一言で片付けることはできなかった。テロによる核爆発から逃れる教育を受けることも、原子力発電所の事故を想定して訓練することも「全く不必要なこと」であれば、どれだけよいだろうか。それと同時に、あの震災の日まで、原子力発電所の事故を考えてもいなかった私自身が思い出されて、悲しかった。

谷口輝世子/プロフィール
デイリースポーツ社で1994年よりプロ野球を担当。1998年に大リーグなど米国スポーツ取材のために渡米。2001年よりミシガン州に移り、通信社の通信員などフリーランスとして活動。プロスポーツだけでなく、米国の子どものスポーツや遊び、安全対策、スモールビジネス事情などもカバーしている。著書『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、章担当『スポーツファンの社会学』(世界思想社)。主な寄稿先 「月刊 スラッガー」(日本スポーツ企画出版社)、体育科教育(大修館書店)