第8回 ボルシチ ― борщ ― ロシア・ウクライナ

 
今年も残すところあとわずか。グッと冷え込むこんな季節に恋しくなるのがあったかいスープ。やっぱり寒い国にはそんな気分にピッタリのスープがあるもの。世界三大スープのひとつとされるボルシチは、寒い寒い北の国、ロシアのスープ...
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ボルシチ ― борщ ― ロシア・ウクライナ

今年も残すところあとわずか。グッと冷え込むこんな季節に恋しくなるのがあったかいスープ。やっぱり寒い国にはそんな気分にピッタリのスープがあるもの。世界三大スープのひとつとされるボルシチは、寒い寒い北の国、ロシアのスープ……と思われているようだが、実はウクライナ料理なのだ。

ちょっと話がそれるが、世界三大ナンチャラには、諸説あるのが通例。スープについても、ボルシチのほかに、タイのトムヤンクン、スペインのブイヤベース、中国のフカヒレスープの名前がよく上がり、3つに絞りきれていないらしい。

ともあれ、ボルシチがおいしいスープであることに変わりはない。ウクライナ料理……とはいえ、政治的な意味ではなく文化的なくくりとしての旧ソ連では広く親しまれているスープで、日本の味噌汁と同じく、地域や家庭によってレシピも味わいもさまざまなソウルフードである。

基本的には肉と野菜を煮込んだもので、シチューに近く、ボルシチとは赤いシチューを意味する[ブリ シチー]が語源とする説もある。肉は牛が使われる例が多いようだが、鶏肉や肉団子、ハム、ベーコンなどが使われることもある。野菜もキャベツやニンジン、タマネギはたいてい、どのレシピにも入っている。そして最大の特徴は、深く紅いボルシチの色の元となるテーブルビート。

カブに似たテーブルビートだが、赤カブとは別物。日本では砂糖大根として知られる甜菜の仲間なので甘みがあり、芯まで深紅。このテーブルビートを入れて煮こむことで、独特の紅い色、旨味、甘みを持つスープとなる。そして、食べる直前にサワークリームを浮かせるのも特徴。

日本でこのボルシチを食べたいと思ったら、やはり目指すはロシア料理店。渋谷駅からほど近いここロゴスキーは日本で最初のロシア料理店。さすがに老舗とあって、メニューにはボルシチがなんと2種類。ロシア料理としてすっかりおなじみの「田舎の家庭風(写真右)」はトマトも入って、ゴロゴロと大きめの具が入った素朴なトマトシチューという感じ。一方、元祖「ウクライナ風」はテーブルビートの色と甘みが柔らかく煮込んだキャベツにマッチしたちょっとエキゾチックな味わい。

どちらも甲乙つけがたいおいしさなので、ぜひ誰かと一緒に行って両方オーダーして食べ比べてみましょう。私がそうしたように……。

◆渋谷ロゴスキー

http://www.rogovski.co.jp/

凛 福子(りん ふくこ)/プロフィール
東京在住。日本とアジアを中心に世界各地を、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。今年の東京…というか日本は、10月半ばにも真夏日があるという長く暑い夏で、それがやっと落ち着いたかと思うと相次ぐ台風の来襲。そして秋らしさを満喫しないうちに冬。おまけに今年の冬は寒くて長いという。カラダがついていけませぬ……。