第2回 「ブルーボトルコーヒー」日本上陸に思うこと

 
米国で「サードウェーブコーヒー」のシンボル的な存在 、サンフランシスコ発祥の 「ブルーボトルコーヒー」がいよいよ日本に上陸する。
「サードウェーブコーヒー」とは、アメリカのコーヒー文化の第3波という意味。1波が大量生...
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サンフランシスコエリアの7軒の中で唯一カフェメニューとサイフォンコーヒーをサービスしているミントプラザ店。
サイフォンは全て日本製。カフェは地元のオーガニック食材を使った品質高いメニューを提供している

米国で「サードウェーブコーヒー」のシンボル的な存在 、サンフランシスコ発祥の 「ブルーボトルコーヒー」がいよいよ日本に上陸する。

「サードウェーブコーヒー」とは、アメリカのコーヒー文化の第3波という意味。1波が大量生産、大量消費で大衆化されたコーヒーとすると2波は「スターバックスコーヒー」に代表される、品質とブランドを確率した大型チェーン型 。そして3波は少量生産、ローカル型、豆の産地と個性を重視したコーヒーで、ハンドドリップで淹れるのが特徴だ。サンフランシスコでは、このスタイルのコーヒー店がトレンドとなっている。その先駆者である「ブルーボトルコーヒー」に私は特別な思い入れがある。それはアメリカに来て初めて美味しいと思えるコーヒーに出会ったこと、そして創始者のジェームス・フリーマン氏と出会った12年前から今まで、ガレージから始まったこの企業が成長する過程を一住人として、ライターとして記録してきたからだ。

グーグルやアップル、フェイスブックなどのIT企業の一大拠点、シリコンバレーが近いサンフランシスコでは、起業家が多く育ち、ベンチャービジネスが次々と誕生している。「コーヒー界のアップル」とも呼ばれる「ブルーボトル」には、この2年で約55億円という投資金が集まったという。それによって店舗数も増えグローバル化が加速した。その海外進出第一号店に日本が選ばれたのは嬉しい限りだが、そこには、ジェームス・フリーマンの熱い思いがある。

日本製のコーヒー専用ポットとジェームス・フリーマン氏の著書

彼の著書、『Blue Bottle Craft of Coffee』の中で、「音楽活動家として日本を訪れた時、 喫茶店マスターが、目の前で丁寧に淹れてくれる一杯のコーヒーが何よりも好きだった」と綴っている。そして「ブルーボトル」の哲学である「一杯のコーヒー」の根源は、日本の古き良き時代の喫茶文化の影響によるものだという。自身が「世界でも最もエレガントなコーヒーのサービスをする国」と語る日本に「ブルーボトル」がオープンする日が近い。

私がジェームスに初めて会ったのは、2002年の夏だった。オークランドの小さな ストリートで、コーヒーの良い香りに誘われ、ある小さなガレージを覗いた。そこでは、一人の男性が音楽をかけながら瞑想をするようにコーヒー豆を焙煎していた。不遇時代のジェームス・フリーマンだ。お互い見ず知らずにも関わらず私達は近所の人と話すように会話を始めた。 「今コーヒー豆の焙煎に凝っているんだ。コーヒーは新鮮さが命だから、僕は音楽のツアーの時でもミル(コーヒー豆を挽く道具)を持ち歩いているんだ」その頃のジェームスはまだクラリネット奏者で、コーヒー豆の販売を始めたばかりと言っていた。 本物のコーヒーの味を追求する彼に“ただ者”ではない何かを感じた。 当時の私は社名を気にも留めなかったが、コーヒーの紙袋に無造作に押されたスタンプ、 青いボトルのロゴはずっと頭の中に残っていた。

シングルオリジンのコーヒー豆は原産国、農家の特徴や風味をそのまま味わう事ができる

それからしばらくして、バークレーのファーマーズマーケットで あの“青いボトル” の露店を見つけ、ドリップコーヒーを飲んだ。野菜などを売っている横で、一杯ずつハンドドリップとは斬新だ。ジェームスがこだわる「焙煎から48時間以内」のフレッシュで香りの良いコーヒーにはたちまち人が並ぶようになり、サンフランシスコのフェリープラザ・ファーマーズマーケットの出店でブレークした。2005年には薄汚い路地裏の倉庫前に第1号の固定店舗(キオスク)がオープンしたが、私はそこでコーヒーを買い求める人々の長い列によく並んでいた。その店の環境をジェームスは著書に、「アンモニアの匂いがするイケてない通りにある店」と説明している。ところが先日久しぶりにその店に行ってみると、小さなガーデンとベンチが設置してあり、”花の香りがする一角”に変わっていた!「ブルーボトル」は現在、全米の都心部に14店舗を構え、大人気のコーヒー店に成長した。

日本からサイフォンを輸入してカフェで使用している

ジェームスにとってここまでの成功は予想以上だったに違いない。本人自身も著書で「ラッキーだった。タイミングが良かった」というほど、時代の波に乗ったようだ。そもそもコーヒービジネスを起こすきっかけになったのは、一時就職をしたIT系の会社を解雇されたことだった。当時は資金も無いうえ、全く先行きが分からないビジネスだったにも関わらずそれをターニングポイントに変え、ラッキーくじを引く結果となったのは、彼が自分を信じてリスクを背負ったからだと思う。あの小さなガレージで出会ったミュージシャンが、今はミリオネア。ジェームスはいつのまにか手の届かない有名人になってしまった。そんなことなら、「あの時もっとプッシュしておけば良かった」などと(本気で)思ったりもするのだ。

この10年、「ブルーボトル」のおかげで、サンフランシスコ、ベイエリアのコーヒーは増々美味しくなっている。「ブルーボトル」の後に続けと「サードウェーブ」系のコーヒー店が増え、彼らは農家から直接購入し地元で焙煎しているからだ。 コーヒー好きな住人にとって、好みの“一杯”を見つけるのはこの上ない楽しみであり、カフェに通うことはライフスタイルの一部になっている。「サードウェーブ」系を支持する人たちは、 エコでおしゃれ、オーガニック食を好む若い世代が多い。そして「ブルーボトル」もまた、オーガニック豆を扱い持続可能なビジネスを目指している。そんなエコなライフスタイルとコーヒー文化がこの街に息づいている。

ジェームスの心を捉えたあの“一杯のコーヒー”が今度はサンフランシスコから日本の人々へサービスされる。「ブルーボトル」の上陸で日本にもエコでクオリティ高いコーヒー文化が広がることを心待ちにしている 。

66 Mint Plaza
San Francisco, CA 94103
営業:毎日7am – 7pm

日本情報
●ブルーボトルコーヒー 清澄白河ロースタリー&カフェ (2015 年2月6日オープン予定)
東京都江東区平野1-4-8

ブルーボトルコーヒー 青山カフェ(2015年3月オープン予定)
東京都港区南青山3-13-14

関根絵里(せきねえり)/プロフィール
ライター/ コーディネーター
福岡県出身、関西育ち。1996年サンタバーバラに移住。1999年に大学卒業後、サンフランシスコでタウン雑誌の支局長を勤める。2004年よりフリーランスになる。現在、フード、トラベル、ライフスタイルの記事を中心に各雑誌にコラムを執筆中。サンフランシスコ在住。
2014年の主な仕事:  記事:「ELLE a Table」「PEN」 西海岸特集、「ミセス」(ワールド)「Japanese Restaurant News」「ボディープラス」
コーディネート:「地球の歩き方」サンフランシスコ/シリコンバレー版、「まっぷる」西海岸版、「タビトモ」サンフランシスコ
著書:『カリフォルニア. オーガニックトリップ』(ダイヤモンド社)(2014)