第4回 究極の「ファーム トゥ テーブル」を実践するレストラン

 
温暖な気候に恵まれたカリフォルニア州は、「畑とキッチンが一番近い州」と呼ばれ、青果の生産量は全米一を誇る。その中でオーガニック食材の宝庫とも言える、サンフランシスコから45マイル(約70キロ)北西に位置するソノマ郡ペ...
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トニーは、素朴な田舎の一角にある、オーガニック農地を購入した

温暖な気候に恵まれたカリフォルニア州は、「畑とキッチンが一番近い州」と呼ばれ、青果の生産量は全米一を誇る。その中でオーガニック食材の宝庫とも言える、サンフランシスコから45マイル(約70キロ)北西に位置するソノマ郡ペタルマ地方は、青果の他にもフリーケイジ(檻や小屋に閉じ込めることなく、自由に歩かせる飼育)の鶏、グラスフェッド(牧草だけが餌の飼育)畜産で有名だ。

ソノマ郡といえばワインの名産地として知られているが、ぺタルマ周辺には観光客は少なく、昔ながらののんびりした農村地帯で、地域で暮らす人々は温かい。春は菜の花が咲き乱れ、一帯が緑と黄色のカラーで覆われる。その広い平野では、“カリフォルニア・ハッピーカウ”と呼ばれる自由放牧の牛がのんびり牧草を食べているといった、牧歌的な光景に出合うことができる。そこに、“Farm to Table”(ファーム トゥ テーブル)をコンセプトとした私が大好きなレストラン「Central Market」がある。

素朴な町、ペタルマのダウンタウンにある「Central Market」

「ファーム トゥ テーブル」の意味は文字通り、「畑からテーブルまで」で、サステイナブル(持続的)な食生活の理想である地産地消(地元で生産されたものを地元で消費する)の実践である。「Central Market」のオーナーシェフ、トニーは、農場内に自宅を構え、オーガニックの野菜を作り、家畜を飼育し、精肉からソーセージやサラミなどの加工品までここで生産している。

しかもその食材はすべて自分のレストランで使い切るので、仲買が発生せず、大金を支払って[USDA Organic](米国農務省によるオーガニック認証)の申請をする必要もない。また箱詰めをせず新鮮なまま食材を使うので、痛むこともなく、輸送によって発生する温室効果ガスも防ぐことができる。トニーの畑作りは土壌を肥やすことから始まり、野菜は遺伝子組換えをしない種から無農薬栽培をする。養鶏、養豚もオーガニックの餌で飼育をする。畑から調理に至るまでの過程全てを自身でコントロールする彼こそ、究極の「ファーム トゥ テーブル」を実践する貴重なシェフだ。

ハッピーなトニーと家畜達

トニーは、実はこのレストランをオープンする前は、ニューヨーク、サンフランシスコの都会のレストランで活躍するシェフだった。エスニックフードの都、ニューオリンズで生まれ育った彼は、若い時からレストラン業界で働き始め、ニューヨークでは料理長に抜擢された。サンフランシスコに移ってからも料理長を経て、ソノマ軍の某ワイナリーで、専属シェフも務めた。ミシュランスターシェフへの道も開けたかに見えた矢先、突然田舎町にレストランを開業する道を選んだ。

左から、グリーンハウスで毎日葉っぱを触って健康状態を確かめるトニー別のグリーンハウスにはマイクロ野菜がイキイキと息吹いているソーセージ、サラミも農場で作られる

「ちょうど探していた理想のオーガニック畑とその畑から近い理想のレストランが見つかったんだ」

そんな環境で地産地消のレストランを経営することが、彼の長年の夢だった。

「地味だけど、自分が育てた作物を自分のレストランで調理し、客に美味しいといってもらえるのは最高だよ」とトニー。

サステイナブルな魚を使った一品は酸味のバランスが絶妙/オーガニック卵は濃厚でクリーミー

テーブルに運ばれる料理は、野菜は新鮮で味は濃く、肉は風味豊かで柔らかくジューシーで美味しい。トニーが手塩にかけた食材への愛情と自然環境を思いやる優しさが伝わってくる。

ソノマ地方のワインとオーガニック肉のコンビネーションは絶品!

「Central Market」は地元住人にとっても誇りだ。店はごく普通で、サンフランシスコの高級レストランのようなエレガントさはないが、ここには家庭的な温かさがある。午後5時のオープン時になると、地元客がぞろぞろと店に入り始め、皆顔見知りなのか、トニーと短い会話を交わしている。

「僕にとってシェフとは、自然の恵みに感謝し、美味しい食べ物を作って人を喜ばせる役割、ただそれだけさ」と照れくさそうに笑うトニー。

その笑顔は目的を達成した成功者の顔だった。

Central Market
42 Petaluma Blvd N, Petaluma, CA 94952
(707) 778-9900

関根絵里(せきねえり)/プロフィール
ライター/ コーディネーター
福岡県出身、関西育ち。1996年サンタバーバラに移住。1999年に大学卒業後、サンフランシスコでタウン雑誌の支局長を勤める。2004年よりフリーランスになる。現在、フード、トラベル、ライフスタイルの記事を中心に各雑誌にコラムを執筆中。サンフランシスコ在住。
2014年の主な仕事:  記事:「ELLE a Table」「PEN」 西海岸特集、「ミセス」(ワールド)「Japanese Restaurant News」「ボディープラス」コーディネート:「地球の歩き方」サンフランシスコ/シリコンバレー版、「まっぷる」西海岸版、「タビトモ」サンフランシスコ
著書:『カリフォルニア. オーガニックトリップ』(ダイヤモンド社)(2014)