第3回 とうもろこしがポップコーンになる車

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とうもろこしがポップコーンになる車

「トイレに行ってくるから見ていてくれない?」と頼まれて、ポップコーン車の見張りをすることになった。

ポップコーンは、大人子ども、季節、時間、階級を選ばず、ブラジルでも愛されている。映画館や劇場前には、必ずといっていいほどポップコーン車が登場。この専用の屋台は、香ばしい匂いを振りまいて人々を惹きつけるのだ。屋台の中の小さなコンロに鍋を置き、鍋の中でポンポンとコーンがはじけるまで約5分。屋台はたちまちポップコーンでいっぱいになる。

ポップコーンを道端で売る人を「ピポケイロ」と呼ぶ。職がなく、屋台を購入してポップコーンを売りに出る人、定年退職した後の職業として、主に男性が始める職業だ。成功し始めたら、他の屋台を購入し、「ピポケイロ」を雇って商売を広げる人もいるという。最低賃金より少し高額の給料は稼げるが、週末休日はなく、立ち仕事あり、楽ではない。

ブラジルのポップコーンは、塩味と、甘い味と2通りある。甘い味にするには、少量の水と砂糖を混ぜる。2つの味を一緒に1つの袋に入れてもらうことも可能だ。その場合は、塩味が上で、甘味が下。購入者は袋をもって、山盛りいっぱい入れてもらい、袋からこぼれ落ちたポップコーンをあわてて口に押し込む。

ポップコーン車のおじさんは、開演にはまだまだ時間のある、国立劇場の前に、私と屋台を残して、経つこと15分。知り合いに出くわして立ち話をしていたとか。私の前にはすでに購入する人々の行列ができていた。両手いっぱいのポップコーンを“おだちん”にもらって、そろそろと歩きながら劇場に入った。

≪高橋直子(たかはしなおこ)/プロフィール≫
ブラジル在住7年目のフォトグラファー&ライター。若い情熱に惑わされてブラジルにはまり、まいた種は芽を出してはや4年。読み聞かせ絵本のポルトガル語を、息子に直される毎日。ビールを片手に楽しむ議論はタブーなし。討論好きのブラジル人に混じってスピーチ力、高めてます。ブログ、「VIVAカリオカ!」