第4回 初めてのハウスシッティング(サンシャイン・コースト前編)

ゆったり楽しんでオーストラリアを横断しようと計画していたのに、出だしからのハプニングのせいで、予想外のアドベンチャーとなってしまった。失くした一眼レフのカメラは、思い当たるところに電話をしてみたがもちろん出て来ない。寄り...
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ゆったり楽しんでオーストラリアを横断しようと計画していたのに、出だしからのハプニングのせいで、予想外のアドベンチャーとなってしまった。失くした一眼レフのカメラは、思い当たるところに電話をしてみたがもちろん出て来ない。寄り道して時間を浪費するのが嫌だったので、警察に紛失届を出すことも潔くあきらめた。車の方は、未だにダッシュボードのコンピューター・ランプが、いくつか点滅したまま。私が誤って入れてしまった軽油を半分ぐらいしか抜けなかった修理工は「軽油は上に浮くから、残りは普通のガソリンと共にだんだんと排出される」という。その言葉を信じ、多少の不安を抱えながらも、私たちは大平原を猛スピードで突っ走るしかなかった。というのも、一軒目のハウスシッティング先の都合で、予定より「早く」来てほしい、と言われたからだ。

オーストラリアの家は平屋が多い

そして、なんとか事故もなく7日ほどで大陸を横断し、無事に東海岸に到着した。何もない赤茶色の平原を何日もドライブした後、やっと辿り着いたクィーンズランド州は「緑一色」。山や樹々が生き生きと輝き、目にも優しい場所だった。

最初のハウスシッティング先は、ブリスベンから北に1時間ほどドライブしたサンシャイン・コースト。本来なら、家主が旅立つ数時間前にシッターである私たちが家に行き、敷地内を案内してもらいながら庭やペットの世話の仕方を聞き、最後に鍵をもらって家を預かる、というのが普通の受け渡し。だが、この家の夫婦は急に予定が変わり数日前に旅立っていたので、私たちが来るまで、ご主人のお母さんが通いでペットの世話をしに来ていた。お母さんと近くで待ち合わせをし、一緒にハウスシッティング先へと向かう。

オーナーの祖父が手作りした桟橋/敷地内のバナナ

家主の夫婦とは面接の時にスカイプで話していたので、家の中や庭の様子も、その時にある程度カメラで見ていた。でも実際に2エーカー(約8000平米)もの敷地を目にすると、東京出身の私にはさすがに「わー、広ーい」のである。平屋の3LDKの家以外は全て、真っ平らな芝生。ところどころにマンゴーやレモン、オレンジ、バナナ、パッションフルーツなどの木があり、小さな沼もある。敷地の端には、自然のままの川へと伸びる桟橋があり、更にその川は近くの海まで続いている。食用になる魚もたくさんいるらしく、その日もお隣さんが桟橋で、のんびりと釣りをしていた。

ざっと外を見渡した後、家の中へ。一通りの説明が終わると、私たちはゲストルームに案内された。ここが今日からしばらく私たちの寝室となる。実は家主の奥さんからは、シーツや枕カバーなどは自分で用意して来るように、と言われ持って来ていたのだが、そんなやり取りを知らないお母さんが、気をきかせてベッドメイクをしてくれていたようだ。「全く、ベッドメイクさえせずに出かけるなんて……」とため息まじりに言っていたが、どうやら嫁・姑の関係は良さそうなので、お母さんのお小言は聞き流しておくことにした。

8000平米の芝刈りは大変だけど、犬たちは大喜び

ここで暮らす間の私たちの仕事は、まず犬2匹、猫2匹、鶏6羽というペットの世話。そして芝刈り、木の枝や枯れ葉の掃除、植物への水やりといった、庭の手入れ。もちろん、家のメンテナンスも大事な仕事だ。パートナーは田舎暮らしに慣れているし、広い庭の手入れも動物の世話も、私たちにとって何も問題ではなかった。

ただ、一つだけ心配だったのは、我が家の小さな犬のロカが、この家の動物たちとうまく馴染んでくれるか、ということ。最初は大きな黒いラブラドール犬だけでなく、小さな子猫までをも恐がり、一々ビックリして飛び上がっていたロカだったが、そのうちみんなで一緒に広い敷地内を走り回るようになり、一安心。

庭からそのまま川に

短いキャラバン生活を終えた私たちは、こんな素晴しい環境の家に5週間、しかもタダで暮らせるという幸せをかみしめつつ、これからの暮らしをワクワクと思い描いていた。予想外のいろんなハプニングがまたしても起こるとは、つゆ知らず……。

香川千穂(かがわちほ)/プロフィール
朝日放送アナウンサー退職後、二年間のハワイ島生活を経て2006年よりオーストラリア在住。執筆のほかにサウンド&アートセラピストとしても活動し、珍しいクォーツ・クリスタルの楽器「アルモニカ」によるサウンド瞑想コンサートを各地で行っている。最近は、趣味と実益を兼ねたダ・ヴィンチNEWS のレビューの仕事をエンジョイ中。