第6回 ファーム暮らし(ゴールドコースト)

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横の森から野生のカンガルーが水を飲みにやってくる

ハウスシッティングもいくつかこなし、ジプシー生活にもだいぶ慣れてきた頃、今度は動物をいっぱい飼っている家でハウスシッターをすることになった。

山に囲まれた大自然の中の広いファーム(牧場)でありながら、日本人に大人気の観光地、ゴールドコーストの中心街やビーチからも車でたった3、40分。海と山、自然と都会、いろんな意味でバランスの取れた素晴しい場所だ。家主は若い夫婦と幼い子供が二人。5エーカー(およそ2万平米)ほどの敷地で、馬一頭、羊五匹、犬二匹、猫二匹を飼っている。

ビクビクしながらボールを取りに行くロカ

今回は芝刈りも畑の水やりもなく、動物の世話だけが私たちの仕事だった。夜は気温が下がるので馬に防寒カバーを着せ、朝それを脱がす。馬小屋の糞も何度か運び出さなくてはならなかった(が、それはパートナーの仕事)。馬は昼間は放牧されているので、自由にあちこちで草を食べている。夜は穀物の餌と干し草を馬小屋で食べるのだが、私たちがうっかり食事時間を忘れてしまうと、家の中庭にいる私たちの顔の前までズンズンと近寄ってきて、お腹がすいた、と訴える。犬や猫と同じペットなのだ。

一つ困ったことは、我が家の愛犬ロカが、夜になると舌なめずりして帰ってくるようになったこと。そして、何か臭う。何と、ロカは羊の糞を食べていたのだ!!消化されなかった穀物が混じった糞は、彼にはごちそうに思えたらしい。急いで口を洗ったが、ロカは最後の日までごちそうハンティングを止めなかった。

瀕死のフクロウ

ある夜、道の真ん中で、車に轢かれたフクロウを見つけた。まだ息があったので車の中に連れて来て、とりあえず水を飲ませ、安心するように箱に入れて上から布をかけてみた。前回、「滞在先の水道管から水が漏れていた時、隣人が水道管工事のプロだった」という話を書いたが、またしてもラッキーなことに、今回の隣人は、野生動物保護の免許を持つ人たちだった。次の朝、弱っていくばかりのフクロウを連れて隣人を尋ねたが、残念なことに既に息も絶え絶えで助からないと言われ、安楽死の注射を打つことになった。瀕死の野生動物を安楽死させるのも、彼らの仕事なのだ。私たちのペットではないものの、車に轢かれた野生の生き物を看取るのは悲しい。気分が沈んでいる私たちに、彼らは保護したばかりのカンガルーの赤ちゃんを見せてくれ、一気に気分が明るくなる。ふと気づけば、窓の外には何十匹もの野生のカンガルーがいて、悲しみも忘れ、顔がほころんでしまった。

車に轢かれた母カンガルーのポケットから保護された赤ちゃん

オーストラリアには馬、羊、牛、アルパカ、山羊などを飼っているファームは多数あるのだが、今回私たちがハウスシッティングをした家は、商業目的で動物を飼っているわけではない。馬は年老いていて乗ることはできないし、羊の毛を刈り取って使用するわけでもないらしい。聞けば、動物をたくさん飼っている理由は、単に子供達のためだという。家主の夫婦は二人ともカナダの都会からオーストラリアに越してきて、子供達にのびのびと動物いっぱいのファーム暮らしをさせてあげたかったそうだ。言うなれば、ペット感覚で馬や羊を飼っているということ。様々な動物を飼っていると、子供たちがいろんなことを自然と学んでくれるだけでなく、子供の雑菌に対する免疫も高くなる。それでも、幼い子供を育てながらたくさんの動物の世話をしていくことは簡単ではない。単に子供のために、これだけの動物を飼うという選択をした両親の愛情と行動力に、深く感動した。

今回はたった10日間という短い期間だったが、少しずつ、いろんな場所でいろんなライフスタイルが経験できるのが、ハウスシッティングのいいところ。ファームで動物たちの世話をしながら暮らしたい、という夢が一つ叶って大満足の滞在だった。

香川千穂(かがわちほ)/プロフィール
朝日放送アナウンサー退職後、二年間のハワイ島生活を経て2006年よりオーストラリア在住。新聞・雑誌などへのエッセイ寄稿、雑誌の編集、特集記事の企画・執筆などを経験後、ライター活動を開始。執筆のほかにサウンド&アートセラピスト、ホリスティック・カウンセラーとしても活動中。ベンジャミン・フランクリンが発明した珍しいクォーツ・クリスタルの楽器「アルモニカ」と倍音楽器などで繰り広げるサウンド瞑想コンサートを、各地のヨガスタジオやフェスティバルなどで行っている(ウェブサイト 英語のみ)。現在はと有機野菜の栽培をしながら、半田舎暮らしをエンジョイ中。