第4回 親の「背」……いや、「ボランティア姿」を見て子は育つ

私が学校でボランティアを始めたのは、とても個人的な理由から。一言でいえば「好奇心」 私は生まれも育ちも日本なので、ニュージーランドの学校がどんなものか、実際この目で見てみたかったのだ。幸いにも娘が通う小中学校は「オープン...
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学校の壁には至るところに、生徒の作品がはられている。これらはすべてボランティアが行う

私が学校でボランティアを始めたのは、とても個人的な理由から。一言でいえば「好奇心」 私は生まれも育ちも日本なので、ニュージーランドの学校がどんなものか、実際この目で見てみたかったのだ。幸いにも娘が通う小中学校は「オープンドア・ポリシー」を前面に打ち出していて、いつ何どきでも親は学校に出入りして構わない。とどのつまりは、できるだけ「ボランティアとして子どもの教育に関わってください」というわけなのだが。

そんな仕事、ボランティアがやっていいの?

小中学校でのボランティアの仕事は、日本でいうPTAのように運営や教育方針の決定はもちろん、ランチの準備・販売、焼き菓子作り、校外学習時の運転・付き添い、各種スポーツのコーチ・マネージャー、プールの管理など、挙げれば切りがない。特に低学年のクラスには毎日のようにボランティアの親が出向いて、教師や子どものサポートをする。日本での授業は教科書を中心に進められるが、ニュージーランドでは代わりにプリントだ。ボランティアにはそれを各生徒のノートにはりつける仕事が頻繁にある。他にも、出来上がった子どもたちの絵を壁に展示したり、宿題で家に持ち帰っていた読本を校内の書庫に戻したりする。単純なことだが、教師がやっていては時間を食うばかりの作業をボランティアの親がこなす。

中学年では、ちょっと驚くようなこともあった。子どもひとりひとりを呼び出して行われる、単語の書き取りテストを任されたのだ。そもそも英語が母国語ではない私が、単語を読み上げて子どもは困惑しないか、そして一生徒の親がやって良いものかどうか……。私がミスをすれば、テストの成績に響くということも気になった。いろいろな心配が頭をよぎったのも束の間。私の目の前には、すでにテストを受ける子どもがごく普通に座って待っていた。

びっくりした仕事はこれでだけではなかった。テストが終わったら、次にやることといえば採点だ。クラスとまったく無関係な人が携わるのなら良いだろう。しかし仮にも娘はこのクラスの生徒。その親が採点して問題ないのだろうか。Aさんは100点、Bさんは30点などと、各人の成績が私に知れても良いものだろうか……。良いらしい。教師も、生徒も、まったく無頓着だ。それだけ親は信用されているともいえるのかもしれないが、ちょっと緊張した。

ボランティアとして親が頑張れば、子どもも頑張る

「オープンドア・ポリシー」が幸いしてのことだろう、娘の学校の生徒は親が学校に出入りするのに慣れていて、親がいても気が散ったりしない。話を聞くところによれば、子どもの落ち着きがなくなるからと、他校では親が教室を覗くのすら禁止しているところもあるそうだ。

忙しい中、自分の時間を削ってまで学校でボランティアをする親たちの姿勢を見て、子どもたちは、自分たちがそれだけ価値ある存在だと気づくといわれている。それをどの程度感じ取っているかは定かではないが、実際子どもの成長に興味を持ち、少しでも良い教育を受けさせたいと考える親の多くは、ボランティアとして大なり小なり学校生活に携わっている。

学校でのボランティアの第一歩として焼いた、ランチタイムに売るためのカップケーキ。一学期に一度順番が回ってきて、約30個のお菓子を作る

親がボランティアとして頑張れば頑張るほど、精神的にだけでなく、物理的にも子どもたちは恩恵を受けることになる。娘の学校で例を挙げれば、学校側から購入費が出ない図書室の書籍。生徒としては、書籍の種類が豊富で数も多ければ、本を借り、読むことの楽しさを覚え、読解力をつけていく。興味の対象も増すだろう。バラエティーに富む本をそろえられるかどうかは、いかに親が精を出してボランティアをし、書籍代を得られるかにかかっている。校内の運動具もしかり。親が資金調達をしたり、実際、整備に携わったりした結果、充実した校庭で、生徒は休み時間に外遊びを楽しむことができる。体力づくりができるだけでなく、肥満にもなりにくい。

学校側から与えられた環境をどうこう言うのではなく、親としてこういう学校であってほしいという希望を体現できるのがボランティア。ボランティアをする親は自らが努力すれば、子どもがより良い学校生活を送れるとわかっているので、充実感もある。昨今忙しくない人なんていないけれど、何とか時間を作り、子どもの将来に直接貢献できるのが、学校でボランティアをする最大のメリットだといえると思う。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。先だって学校の「ボランティアありがとうの会」に出席。校長先生から「忙しい人だからこそ、学校でどれだけ手を必要しているかを理解し、より効率的に手伝ってくれる」という言葉をいただいた。その通り。時間を何とかやりくりしてボランティアをしている人は非常に多い。