第9回 「フレンチランドリー」料理長デビット・ブリーデン氏インタビュー:シェフへの道は「ディタミネーション」

 
カリフォルニア、ナパバレーにあるレストラン、「フレンチランドリー」は、2006年よりミシュラン三つ星を獲得し続けている米国を代表するレストランだ。 世界一のレストランにも2回選ばれており、全米一予約が取りにくいことで...
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有名なフレンチ・ランドリーの”ブルードア”の前に立つデビット・ブリーデン氏

カリフォルニア、ナパバレーにあるレストラン、「フレンチランドリー」は、2006年よりミシュラン三つ星を獲得し続けている米国を代表するレストランだ。 世界一のレストランにも2回選ばれており、全米一予約が取りにくいことでも知られている。 比較的 近い距離に住んでいながら、これまで行くチャンスがなかった私だが、この度、同レストランの料理長、 デビット・ブリーデン氏に話を聞く機会があり、レストランがあるヨントビルの町に出かけた。

ぶどう畑が広がる美しい景色に囲まれたヨントビルは、10年くらい前まではなんの変哲もない静かな町だった。今では「フレンチランドリー」のオーナーで有名シェフのトーマス・ケラー氏が所有するレストランが4軒増えた他、ホテルやカフェも急増し、瞬く間に大人気の観光スポットに変貌した。しかし古き良き時代のアメリカを象徴する邸宅のような「フレンチランドリー」の外観はそのままだ。向かいには、同レストランが所有する「ガーデン」と呼ばれる広大なオーガニック畑がある。そこに現れたシェフ、ブリーデン氏は、親しみやすい笑顔で私を迎えてくれた。初対面なのにまるで隣の住人と会話をするようにインタビューをしながら一緒に「ガーデン」を歩いた。

手触りで野菜の状態を見るデビット・ブリーデン氏

ブリーデン氏は、最近の若手シェフにありがちな、都会の優秀な料理学校やフランスの有名レストランでの研修などの経験はない。 テネシー州のレストランも疎らな田舎町に生まれ育った彼は、ひたすら料理本を読みながら料理を学んだ。農家から新鮮な食材を調達し家庭で料理を作った。でも一体どのようにして “カントリーボーイ”が料理人なら誰でも憧れる世界のトップレストラン、「フレンチランドリー」の料理長にまで上り詰めたのだろうか? 彼は一言、「ディタミネーション(determination)」だと言った。目的を達成したいという強い思いと行動力があれば、道は必ず切り開けるというのだ。

彼が田舎で料理本に耽っていた時代、たまたま雑誌でトーマス・ケラー氏の記事に出会った。読み終えた瞬間、「この人こそ私の師匠だ」と直感したという。まだその時18歳。ファインレストラン(高級レストラン)での経験を持たなかった為、 ノースキャロライナ州に移住し、 現地の高級レストランで16時間働いた。半分は無報酬(無給)だ。キッチンで働く先輩達の技術を見て研究し身につけていった。「学校の教科書では学べないキッチンでの実践」と「技術や知恵は与えられるより盗む」流儀が自分にとってベストだったと振り返る。

ある日、 「フレンチランドリー」の研修生募集の広告を見つけたものの研修期間はたった3ヶ月だけ。どうしても従業員になりたかった彼は、直接ケラー氏にかけ合ったが、あっさり断られた。ある時、「精肉係ならある」と言われ、誰もが嫌がるその持ち場を即座に引き受けた。しばらくするとたまに調理場を手伝わせてもらえるようになり、回数は次第に増えていった。ケラー氏は若いシェフたちの意見を聞いたり、挑戦をさせてくれたりする広い心の持ち主だとブリーデン氏はいう。その師匠との出会いが彼の運命を大きく変えた。

日本の琵琶湖で釣ったヤカラをノブ氏と調理した経験から生まれたブリーデン氏の新メニュー、「サケ ポーチド ジャパニーズ ヤカラ」

それから6年の月日が流れた2013年、ブリーデン氏はとうとう「フレンチランドリー」の第3代目シェフ、デ・キュイジーヌ(料理長)に選任された。それから二人の2人3脚が始まった。ケラー氏の繊細なフレンチ料理の技術とブリーデン氏のダイナミックな田舎料理の要素がコラボされ美しい一皿が生まれている。最近、メニューに「和食」の要素が入るようになった。1年前、ブリーデン氏が初めて日本に行き、 「NOBU」のオーナーシェフ、松久信幸氏と経験した食ツアーがきっかけだった。 彼が日本のシェフを見て驚いたのは、専門分野を極めている点、生産者への尊敬が深く食材を無駄にしないことだ。それは、ずっと彼自身が田舎で育んだ料理の基本的精神でもあった。ブリーデン氏は、「ガーデン」で収穫したコーンを使って自家製豆腐を作ったり、出汁を隠し味にしたり、皿に季節感を表現するなど、ウェストとイーストをコラボさせた新メニューを「フレンチランドリー」で実践している。

収穫間近の野菜を楽しそうに見回るデビット・ブリーデン氏

「ガーデン」を歩くブリーデン氏は、まるで少年のように目を輝かせながら、収穫前の色艶の良い野菜を触ってチェックしたり、時々齧ったりして“カントリーボーイ”の一面を見せてくれた。「日本人シェフは根の部分も美味しく調理していたよ。またいつかコラボしたいな」と言い残し、 迎えに来たマネージャーが持って来た綺麗にアイロンがかかったシェフエプロンを身に付け、キッチンへ向かった。その顔はインタビュー時のフレンドリーな顔とはうって変わり、キリリと引き締まっていた。

The French Laundry
6640 Washington St, Yountville, CA 94599 U.S.A.
(707) 944-2380
Mon-Sun 5:30 pm – 9:30 pm
Fri-Sun 11:00 am – 1:00 pm
ドレスコード:スマートカジュアル(男性はジャケット要)
*予約をしたい日の2ヶ月前の日、午前10時より電話がウェブで(しかしウェブの場合、ほとんど予約は入らないので電話の方がオススメ)

関根絵里(せきねえり)/プロフィール
ライター/ コーディネーター
福岡県出身、関西育ち。1996年サンタバーバラに移住。1999年に大学卒業後、サンフランシスコでタウン雑誌の支局長を勤める。2004年よりフリーランスになる。現在、フード、トラベル、ライフスタイルの記事を中心に各雑誌にコラムを執筆中。サンフランシスコ在住。2014年の主な仕事:  記事:「ELLE a Table」「PEN」 西海岸特集、「ミセス」(ワールド)「Japanese Restaurant News」「ボディープラス」コーディネート:「地球の歩き方」サンフランシスコ/シリコンバレー版、「まっぷる」西海岸版、「タビトモ」サンフランシスコ 著書:『カリフォルニア. オーガニックトリップ』(ダイヤモンド社)(2014)