第6回(最終回)人と人との橋渡し、ボランティア

各OECD諸国の日常生活についての報告書、「より良い暮らし指標2014」によれば、ニュージーランド人がボランティアに費やした時間は1日当たり13分で、平均が4分というOECD諸国の中で最も長いそう。国民の寛容さを調査した...
LINEで送る

毎年行われる、ボランティアの働きに感謝するナショナル・ボランティア・アウェアネス・ウィークを記念して、描かれた壁画。これも、ボランティアによるものだ

各OECD諸国の日常生活についての報告書、「より良い暮らし指標2014」によれば、ニュージーランド人がボランティアに費やした時間は1日当たり13分で、平均が4分というOECD諸国の中で最も長いそう。国民の寛容さを調査した「世界寄付指数」のボランティア参加の分野では、ニュージーランドは145ヵ国中第4位。世界的に見ても顕著なボランティアの働きを通して、ニュージーランドの人々は物理的に大きな恩恵を被っている。しかし、それだけではない。ボランティアの存在は社会にハーモニーをもたらしているのだ。

ボランティアが取り持つ仲

私が時々寄る店、「ホスピス・ショップ」。患者が無料でホスピスでのケアを受けることができるよう財政支援を行うため、寄付された日用品や家具などを安価で販売するリサイクルのお店だ。裏で品物の整理や確認をするのはもちろん、販売員も、大きな品物の配達をするドライバーも、皆ボランティアだ。シニア層の人々が主だが、20代の若い世代も交じって働いている。おじいさん、おばあさんは皆、長年一線で活躍後引退し、そこそこの貯蓄もあり、今は悠々自適の生活を楽しんでいるといった風情の人たち。その一方で若者は、ティーンエージャーの時はやんちゃで、今は職探し中であろうことが一目でわかるタイプだ。

おそらく世の中で最も違うだろう2タイプの人々がひとつの場所で同僚として働いている。短絡的に、双方がうまくいっていないのではないかと想像したくなるが、さにあらず。おじいさん、おばあさん、そして若者は、実に楽しそうに言葉を交わし、笑顔で仕事をしている。若者は、重いものを持つなどシニアをかいがいしく助け、シニアは若者にアドバイスをする。本当に和気藹々としていて、こちらにまでその温かみが伝わってくる。

もし、おじいさん、おばあさんがボランティアをしていなかったら、そして若者がボランティアをしていなかったら……彼らの道は、社会のどこかで交差していただろうか。いや、ボランティアをしていたからこそ生まれた絆なのではないだろうか。

いつも多くの人で賑わうホスピス・ショップ。日本の保健所の役割を担う、地方保健委員会からの助成金はホスピスの運営費全体の50~60パーセントに過ぎない。不足分の80パーセントがこの店の売り上げで賄われている

いたわりの心は、社会を巡る

ボランティアは活動を通してのみならず、社会を暮らしやすくするためのきっかけ作りの面でも、意味ある存在だ。ニュージーランドでは、ボランティアをする人が常に「支える」側というわけではない。自分が、子どもが、家族が、ある時点、そして何らかの理由や形で必ずボランティアに「支えられて」いる。要するに「ギブ&テイク」のバランスが良いのだ。このことは円満な人間関係を維持するのにとても大切なことと、経験上私は考える。

親切心のギブ&テイクのバランスが良いということは、人が他人を思いやる気持ちが社会を循環しているということでもある。助けられれば、ありがたいと思い、自分が受けた好意に報いたいと考え、実際恩返しをする。その恩恵をまた誰かが受け……人へのいたわりの気持ちは社会を巡っていく。

ボランティアは、人と人との間の調和を取り持っている。時に、自分の日常生活の範囲を超えたところにいる、思いがけない人との出会いをもたらしながら、優しさは人から人へとどんどんバトンタッチされ、広がっていくのだ。思いやりが循環している社会は、暮らしやすく、居心地が良い。これがボランティアをしていてわかった、ニュージーランドの一面だ。そしてこの国に住んでいて良かったなと思える点でもある。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。ニュージーランドでは、一部の消防士や救急救命士までがボランティア。彼ら、彼女らの活躍がなくては、社会は成り立たないことを実感する。