第35回 世界のお買い得品

 
このところ、月1ずつでメキシコ、インドネシア、そしてアメリカもしくはヨーロッパとゆるく仕事をしている。年中行事並みの頻度で未踏の国や都市が巡ってくることもたまにはあるが、たいていはいつも決まったところにおしっこをかけ...
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エジプト・カイロのスーク(市場)

このところ、月1ずつでメキシコ、インドネシア、そしてアメリカもしくはヨーロッパとゆるく仕事をしている。年中行事並みの頻度で未踏の国や都市が巡ってくることもたまにはあるが、たいていはいつも決まったところにおしっこをかけてまわる犬のように世界をうろついている。

6月末に運び屋として初めてスペインに行った。個人的には6年ぶりのスペイン、16年ぶりのマドリッド。まるでタイミングを計ったかのようにどんぴしゃでイギリスのEU離脱が決まったため、思いがけずユーロが安くなった。ヨーロッパはちょうど夏のバーゲン真っ最中。おかげでスペインブランドDesigualのバッグを底値で買った。ラッキー!

EU統合後、ヨーロッパの首都にある店はどこも似たり寄ったりだ。ファストファッションならスウェーデンのH&M、スペインのZARA、MANGO、ベルギーのC&Aは必ずある。H&Mはデザインはかわいいが縫製がまるでなってない。C&Aは生地も縫製もしっかりしているがかわいげがない。かたや日本でも人気のH&M、ZARA、MANGO。かたやいち早く90年代に日本に進出したものの、すぐに撤退したC&A。しかし、シンプルな定番商品なら安くて質が良いC&Aはマストバイだ。たとえば10足で7ユーロのドイツ製の綿靴下はリピート買いしている。

アメリカで必ず行くのがアウトレットモール。アメリカは子供もでかいので、小柄な日本人女性にはキッズのXLがちょうどよい。子供用で気に入ったものがあれば、大人用よりも安くてお得である。足のサイズも小さいので根気よく探せば掘り出し物がある。ニューバランスの靴を3足70ドルほどで買ったこともある。アウトレットモールがないとき、バーゲンシーズンでないときは、サルベーション・アーミーをのぞいてみる。コンディションのよいアメカジの古着が安く手に入るうえに、チャリティーにもなって一石二鳥だ。

アメリカはドラッグストアもはずせない。デンタルフロスなどのデンタルケア、マルチビタミンなどのサプリメントをよく買う。歯を白くするホワイトニング用のテープや歯磨き粉は日本では薬事法に引っかかる。睡眠導入剤のメラトニンや成長ホルモンは日本では処方箋がいるが、アメリカではサプリとして売られている。特に買いなのがPB(プライベートブランド)商品。まとめ買いするとさらに安く買えることもある。

ところで、米国大手ドラッグストアブランドの風邪薬などの常備薬はインド製が多い。日本のエーザイなどの製薬会社もすでに現地に工場を構えており、今後インドは世界の製薬工場になると言われている。インドはとんとご無沙汰なので現状にうといが、薬やサプリを買うのはすでにアメリカよりもインドの方がお得なのかもしれない。

ちなみに、まつ毛育毛剤として日本では高値で取り引きされるケアプロストは、インドのごく一般的な町の薬局で4ドルほどで買える。薬事法に引っかかるものと処方箋がいるものは、日本では個人輸入という形式をとるため高くなるのだ。個人輸入したものを使ってもし薬害が出たとしても、それは自己責任である。ケアプロストは本来は緑内障の点眼薬だが、副作用でまつ毛が濃く長くなる。効果のほどは我が身をもって実証済みだ。

どの国でもスーパーに行くのはとても楽しい。アメリカではバターとピーナツバター、エジプトではジャムとハチミツ、インドネシアではチョコレート菓子がそれぞれマストバイ。バター不足の日本よりも日本にバターを輸出しているアメリカの方が安いはず。アメリカ人のソウルフード、ピーナツバターは、日本ではレアな無糖タイプをいつも買う。エジプトのジャムは、イチジクやデーツ(なつめやし)のものが日本人には物珍しい。かつてはミイラの防腐剤として使われていたというハチミツも美味である。インドネシアで買いのチョコ菓子はオーストラリアのTimtamだ。日本の輸入食品店で売られているTimtamはオーストラリア製でお高いのだが、インドネシア国内で流通しているTimtamはインドネシア製でローカルプライス。よく見るとパッケージに「インドネシア国外での販売禁止」と書かれている。しかも、本家本元よりも甘すぎないので日本人の口に合う。

日本でよく安売りされているいちごジャムやマーマレードは、たいていがエジプト製だ。大量輸入かつ薄利多売のため、特売品を日本で買えば現地とさほど値段は変わらない。もはや韓国のものは、本国よりもそのいいとこどりをしたコリアンタウン新大久保の方が安い。以前は日本の農業技術でつくったアロワナ印の米を中国で買っていたが、米離れと少子高齢化でもはや日本米の方が安くなってしまった。長引く不況でデフレにあえぐ日本よりもさらに安い底値でお買い得品を見つけるのがどんどん難しくなりつつある。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2016年現在、50カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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