第1回 はじめに

連載「文字盤のない時計〜ディスレキシアDyslexiaを克服する〜」
文:マイアットかおり (フランス・ビアリッツ在住)
ディスレキシア(Dyslexia)という言葉を聞いたことはありますか?

日本語では失読症、難読症...
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連載「文字盤のない時計〜ディスレキシアDyslexiaを克服する〜」
文:マイアットかおり (フランス・ビアリッツ在住)

ディスレキシア(Dyslexia)という言葉を聞いたことはありますか?


日本語では失読症、難読症、識字障害、読字障害などと呼ばれ、学習障害のひとつに数えられています。日本ではまだまだ一般にはなじんでいないようで、なかなか詳しい情報が得られませんが、英語の文献を調べると、かなりたくさんの情報に出会えます。あまり研究が進んでいない障害であり、どのくらい多くの子どもたちがこの症状に悩んでいるかもよく知られていないのが現状のようです。人口全体の10%がディスレキシアであるとされるイギリスですら、症状については多少認識されてはいるようですが、まだ誤解のある表現も多くみかけます。また、ディスレキシアをどう克服するのか、という情報については決定的に不足していると感じています。


この連載を書くにあたって、学習困難や識字障害に悩んでいる子どもさんや保護者の方、大人になってからも文字の認識に苦しんでいる方の力に少しでもなれればと思っています。
そもそも、私自身、数年前までは、まったくディスレキシアについて知りませんでした。また、私はディスレキシアの専門家でもありません。この言葉を知るきっかけとなったのは、他でもない私の息子です。
今9歳になる息子セイジは、今年初めて専門家から正式にディスレキシアの診断を受けました。診断を受けることになった経緯や、ディスレキシアについて、息子の症例についてなど、知っていること気づいたこと、息子が受けているトレーニングなどを伝えていきたいと思います。


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まず、私たち一家と家庭環境について簡単に説明したいと思います。私(日本生まれ、日本育ち)は数年の海外渡航経験を経て2003年にフランスに来ました。夫は、フランス人の母とイギリス人の父を持ち、主にイギリスで育ち(思春期以降はフランスとドイツ)、私とは英語で話しています。現在子どもたちとともにフランスに住んでいます。


1999年に私たちは日本で結婚し、すぐに長男が生まれました。その2年後、次男も日本で誕生しました。

2001年10月のことでした。子どもたちは2人とも日本で生まれましたので、当然長男は5歳まで、次男は2歳まで問題なく日本語で話していました。その後の渡仏に伴い、自然に日本語は忘れていくようになり、代わりにフランス語を身につけ、現在兄弟の間ではフランス語で話しています。子どもがフランス語を覚えてからも、私がほぼ一方的に日本語を話すこともありますが、家族で話す共通言語はほとんど英語です。このような経緯もあり、言語環境は1言語のみで話す典型的な家庭と比べるとちょっと複雑であると思います。


次男に比べると長男は、ちょっと神経質なところがあるものの、読み書きに関しては至って普通の子どもでした。保育園の年中くらいの年には、テレビの字幕のひらがなを拾い読みできるくらいに、読む能力はばっちりでした。しかし、フランスへ来て現地校に入ると、せっかく覚えたひらがなカタカナも忘れてしまい、その代わりに覚えることとなったアルファベットが複雑に感じたのか、フランス語の読み書きの習得はスムーズとは言い難いものでした。そのため学校から発音矯正士(オルトフォニスト:Orthophonist)に行くよう指示され、半年通いました。長男の場合、半年で効果はてきめんに現れ、アルファベットを組み合わせて読む法則を学習したら、読めるようになるのも時間の問題でした。フランス語は英語と比較すると規則性があるため、一旦法則さえ覚えてしまえば読むのは英語よりも楽なのです。


しかし次男の場合は違いました。


<続く>
≪マイアットかおり/プロフィール≫
フリーランス翻訳、フリーライター。新潟魚沼市出身。フランス・バスク在住。Nokia 携帯、iTunes、Microsoft 関連製品をはじめ、iPhone アプリなどさまざまなソフトウェア製品のローカライズ翻訳を手がける。3ヶ国語環境という負担がのしかかるかわいそうなふたりの子どもたちといつまで 経っても覚えの悪い夫の日本語教育に苦戦中。