第1回 不思議なめぐりあわせ

家に犬がいたことはなかったけれど、犬はいつも身近な存在だった。母が高校生の時に飼い始めた秋田犬のまるちゃんが祖母と一緒に暮らしていて、遊びに行くたびに会えたからだ。血統書付きで由緒正しく、「若月姫号」という立派な名前を持...
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幼い日の私とまるちゃん。確かに大きい……かな?

家に犬がいたことはなかったけれど、犬はいつも身近な存在だった。母が高校生の時に飼い始めた秋田犬のまるちゃんが祖母と一緒に暮らしていて、遊びに行くたびに会えたからだ。血統書付きで由緒正しく、「若月姫号」という立派な名前を持っていたが、私にとっては「まるちゃん」で、祖母が「わかづきちゃん」と呼んでいるのをちょっぴりよそよそしく思ったりもしたものだ。私の覚えているまるちゃんは両腕をいっぱいに広げた大きさで、今思えば、3~4歳ほどの子どもには相当大きな犬に見えたのだろう。

そんなまるちゃんの思い出があるからか、私の頭では犬=秋田犬と変換されているように思い込んでいたが、ポーランドに来てチラと出会ってからそうでもないことに気がついた。

チラを撮ったお気に入りの1枚。まだ1歳半の頃。

あれから20年近く経ち、まさかそんなコリーと暮らせることになるとは夢にも思っていなかった。子どもの頃から思い描いていた犬のいる生活が、ポーランドでの結婚と同時に現実のものとなったのだ。

夫は今でも冗談っぽく私にいうことがある。「チラと別れたくなかったからボクと結婚したんじゃないの」

後に夫になる人の家の玄関のドアを開けた時、部屋の奥から走ってきて私に抱きつき、ちぎれんばかりにしっぽを振ってくれたチラ。あの日の光景を思い浮かべるたび、夫の言葉はまんざら冗談ではなかったのかもしれないと思う。14年という長い年月を共に過ごしたチラは、半年前に15年3か月の生涯を閉じ、今はもういない。

チラを失ってすぐのことだったか、ふとした拍子に寂しそうな表情を見せるようになってしまった娘を元気づけるつもりで『名犬ラッシー』の本を買ってやった。ポーランド語版のその表紙には、チラと同じ黒い毛並みのコリーの姿があったのも嬉しかった。映画のイメージばかりが強く、ラッシーは茶色いコリー(セーブル)だとばかり思っていたが、「ラッシーは黒と白と茶色というトライのコリーで」という文章が出てきた。ラッシーはチラと同じ色合いのコリーだったのだ! それを知ったときの喜びといったら! まるでチラが私たちの元に戻ってきてくれたようにさえ感じられたほどだった。

我が家に来た日のラッキー。まだ生後8週間だったので、新しい家に緊張しながらもコテッと眠ってしまった。

ポーランドでの結婚生活も犬との暮らしも、間もなく15年になろうとしている。ご近所の“犬友達”もたくさんできた。日本で犬と生活したことがない私だが、ポーランドで犬と過ごす日常をお届けしたい。

スプリスガルト友美/プロフィール
ポーランド在住ライター。かわいがっていたチラが旅立ったとき、もう高齢なので覚悟はしていたものの、家族そろって深刻なペットロスに陥ってしまった。チラの写真を眺めては涙したり、犬に関する本なら何でも手に取ってみたり。新しく迎えたラッキーと過ごして4か月経った今、チラとの思い出とラッキーとの日常を形に残しておきたいと思うように。ポーランドの犬たちの暮らしぶりを楽しんで頂ければ幸いだ。
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