Kのいとこが副校長をしている小学校に出かけた。プノンペンの下町のようなところで、周囲は人通りが多く、にぎやかである。
学校は1クラス30〜40人ぐらいで、みな制服を着ている。午前と午後の二部制で、各4時間。国語、算数、理科、社会と4教科あり、教科書は無料である。見せてもらったら、教科書はシンプルでわかりやすそうだった。
12歳まで義務教育だが、学年が上がるごとに子どもの数が減っていく。「観光地などで子どもが物売りをしているが、決して買ってはいけない」と副校長は話す。つい子どもから買いたくなるが、そうすると親はますます子どもを学校に行かせなくなる。
校庭には熱帯の植物が、精力的に生えている。その中をジャングルジムや鉄棒、自宅からもってきたミニカーで遊ぶ子どもたち。女の先生はみな丈の長いスカートをはき、一昔前の日本のようだった。
休み時間には物売りが学校に入って来て、小さな屋台でおせんべいを焼き、砂糖をかけ、丸めて売っている。子どもたちが競うように手を出す。校門脇では腰をどっしり据えた女性が、1日中サトウキビジュースを売っている。生のサトウキビをばりばりと絞り、すだちのような柑橘系の果物の汁を少したらす。ものすごくおいしい。
夕方になると、中学生ぐらいの子どもたちが続々集まって来た。何かあるのかと思ったら、英語の塾だという。学校が業者に教室を貸しているのだ。英語熱はカンボジアでも高い。公立校の義務教育は無料だが、高い学費を払ってでも、私立やインターナショナルスクールを望む親は増えているという。国の発展に伴い、格差もじわじわと広がっているような気がした。
≪田口理穂(たぐちりほ)/プロフィール≫
1996年よりドイツ在住。ジャーナリスト、ドイツ州裁判所認定通訳。著書に「なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか」(学芸出版社)など。カンボジアの夜は、橙色の街灯に照らされ、独特の空気があった。カンボジアに滞在したのはたった半年前のことなのに、ドイツの生活とあまりにかけ離れていて、すでにセピア色の思い出になっている。