第4回 知らない土地を旅する
祈る人

Kの親戚一同と旅行に出かけた。外国から親戚が来ると、いつもみなで旅するそうだ。2泊3日、5歳から82歳まで総勢19人で出かけた。

目的地はプノンペンから西へ200キロほどのところにあるシアヌークビルやボッコー山である。19人が、普通の乗用車3台に分乗。つまり1台に6~7人だからぎゅーぎゅーである。英語ができるKの姪っ子と、いとこの奥さんがいつも私と同じ車に乗り、いろいろ説明してくれた。その奥さんは夫と子どもをカンボジアに残し、アメリカの中華レストランで10年ほど働いていたという。昨年やっとカンボジアに戻り、大きな家を建て、今は家族で幸せに暮らしている。

久々に親戚が大集合したから、話はもちろんカンボジア語で盛り上がった。急に車が停まるのでどうしたかと思ったら、朝食休憩だったり、おやつを買ったり、道に迷っていたり。カンボジア語のできない私は、ちんぷんかんぷん。ドイツに来た20年前、まったくドイツ語がわからず、ただうろうろしていたのを思い出した。当時はとても心細く感じたが、今回は旅の間だけだからまったく違う。自分で決めなくていい、何も心配しなくていいことの、なんと自由で伸びやかなことか。子どもに戻った気分で、朝市で魚介類や野菜の新鮮さに感嘆し、海の香りを胸いっぱい吸い込んだ。カニやロブスターを買って近くの食堂で鍋にしてもらい、食後にハンモックで昼寝した。夢のようだった。

聖なる山を参拝したとき、奥に洞窟があった。ひんやりとして、山あいから高い空が見えた。お香が焚かれ、静けさに耳をすますと、大地を身近に感じた。なぜ人は、祈ったり瞑想したりするのか。それは地球とつながるため、自分がこの世界の一部だと確認するためではないか。ギニアの海に触れたときも、ふいにしんとした気持ちになったっけ。旅をすると、日ごろ見逃していたものに気づかされる。特に、見知らぬ土地を地元の人と旅するのは最高である。

 

田口理穂(たぐちりほ)/プロフィール
1996年よりドイツ在住。ジャーナリスト、ドイツ州裁判所認定通訳。著書に「なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか」(学芸出版社)など。友達から薦められた片付けの本に触発され、何年かぶりに大掃除をした。服や小物をゴミ袋10袋分処分し、すっきり。部屋が片付いていると空気の流れがよくなり、新しいことが入ってくるというけれど、ほんとにそんな気がする。ついでにお腹をこわし、体からも余計なものが出ていった。