第5回 結婚式は派手に
大にぎわいの披露宴

Kはドイツに来る以前ソ連に留学していたが、その留学仲間の娘さんが結婚するというので、結婚式に一緒に招かれた。プノンペンの海沿いには高級ホテルが並んでおり、そこで大がかりな結婚式をするのが流行りなのだという。

ホテル群に近づくと、 周囲がやけに明るい。式場の入り口では、新郎新婦がスポットライトを浴びて待ち構えており、続々と来るゲストに記念のスカーフを手渡していた。隣には二人の等身大の絵が飾られている。式場に入ってすぐのところに西洋風のソファーが置いてあり、そこでみな記念写真を撮っていた。新郎新婦と撮る人もいれば、一人でポーズをとったり、カップル、女友達 、家族写真など自由自在。いかに自分を美しく見せるかに夢中になっており、つい私も 「熱心に写真を撮る人たち」をたくさん撮ってしまった。

それから12人がけの丸テーブルに着いた。テーブルは50以上あったから、600人はいただろう。ゲストが多い分、給仕も多く、ごったがえしている。豚の頭の丸焼き、フカヒレのスープ、海鮮麺、鍋物、焼き飯など次々とご馳走が並び、とても食べきれない。

Kは留学仲間と久しぶりに会ったので、話し込んでいる。みな政府の要職や大学教授、医者となり、カンボジア社会を背負っている。IT関係の仕事をするKは「ドイツに住んでいる僕が一番貧乏で、さえない」と笑う。 「カンボジアに帰ってこい、どうして寒いドイツなんかにいるんだ」とみながいう。バブルにわくプノンペンでは一山当てた人がそこかしこにおり、Kの親戚でも土地成金となりファーストクラスでドイツに遊びにきた人がいるそうだ。日本の半分ほどの国土に1600万人が住むカンボジアは、ここ7、8年 GDP成長率が7%とめざましい発展を遂げている。派手な結婚式もその表れなのだろう。

そうこうしているうちに、前方でケーキカットが行われ、続いて生演奏に合わせてダンスが始まった。満面笑みの新郎新婦を見て、結婚ってうれしくて自慢したいからこうして盛大にお祝いするのだと思った。

 

田口理穂(たぐちりほ)/プロフィール
1996年よりドイツ在住。ジャーナリスト、ドイツ州裁判所認定通訳。著書に「なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか」(学芸出版社)など。

結婚式の後、近くのイオンモールに寄った。カンボジアの中に、ふと日本の世界が広がっていて不思議な感じ。グローバル化の波はこんなところにも来ているのだ。