去年の9月頃から、フランスに住む友人知人に、日本帰国が決まった旨をぼちぼちと報告し始めたが、意外なほど「あなたも?」という反応が多かった。「最近、周りで多いんですよね」とか、「実は私も」という人もいた。
15年ほど前に、パリで“働く日本人の会”という非営利団体の立ち上げに参加した。フランスで労働許可を取得して働く日本人がメンバーとなり交流会や勉強会を開き、コミュニティサイトも作った。現地法人の正社員もいれば、フリーランスもいたし、フランスで起業したメンバーも。みんなフランス語を使いこなし、配偶者はフランス人で子どもを現地校に通わせている人も多く、フランス社会にちゃんと同化しているように見えた。
ところが、現在、なぜかその中心メンバーの大半が日本に帰国している。「沈みかける船からネズミが逃げ出すごとく」などと冗談で言っているが、帰国の理由、きっかけは様々のようだ。私より一回り下の、現在40代のメンバーが多く、先日も、数年前にフランス人配偶者と子ども3人を連れて日本に戻り、会社を興した40代半ばの男性メンバーがメッセージをやりとりする中で、「年代的に、決断しなくてはいけない世代。タイミングを間違うと、日本社会に入れなくなるから」と書いていた。タイミングという点では50代半ばの私には、40代のメンバー以上に、もう後がない、という気持ちが強いのだが。
一人で母国に帰るのと違い、フランス人配偶者を含む家族を連れて完全帰国するというと一見、大ごとに思われるらしく、私も「よく決心したね」などと言われて戸惑う。
ただ、フランス人と一口に言っても、日本語ができるのか、日本に住んで働いた経験があるのか、専門職種が何か等々のその人のキャリアで日本移住のハードルの高さも変わって来る。子どもに関しては学校の問題が大きいので、年齢と日本語がどのくらいできるかで決まる気がする。インターナショナルスクールや東京と京都にある国際フランス学園に入学させる方法もあるが、それができるのは限られた家庭だけだろう。
先に帰国した人たちを見て思うのは、完全帰国をして日本で生活するのに本当に必要なのは、決断力と行動力、状況フレキシブルに対応できる柔軟性だということ。それを持ち合わせていたから、そもそも日本からフランスに移住したのだろうし、また、日本に戻って新しい生活を築けるのだという印象を受ける。
今、日本在住の元“働く日本人の会”メンバーがSNS上で情報交換をしたり、オフ会を開いたりしている。フランスから家族で日本に帰国(配偶者や子どもたちにとっては移住)したという共通体験を持つ人たちのネットワークができれば、日本で生活していくうえで心強いので、私もぜひ仲間に入れてもらいたいと思っている。
《江草由香(えぐさゆか)/プロフィール》
編集者・ライター・通訳・翻訳者・イベントコーディネーター。
立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。フランスでPRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発フリーペーパー『Bisouビズ』を創刊し、現在日仏バイリンガルサイト『BisouJaponビズ・ジャポン』の編集長。個人ブログは『ビズ編集長ブログ』