第8回 更年期鬱?帰国鬱?

私はひょっとしたら鬱病?

と思い始めたのは、年明けを過ぎた頃からだろうか?

夜、眠れない……正確にはすぐに寝付くが数時間で目覚めてしまい、その後朝まで寝付けない。何に対しても意欲が湧かないし、原稿書きなどの作業も前より時間がかかる(これは老化の疑いもあるが)。イライラして息子をきつく叱った後に自己嫌悪に陥ることもしばしば。何よりも突然言い知れぬ不安感に襲われて、心臓が苦しくなる。「障害のある息子を一人で抱え、収入も不安定で、これからどんどん歳をとっていくばかり、一体自分たちはこの先どうなってしまうのだろう?」と考えても仕方のないことが頭の中をぐるぐる回り、奈落の底に沈んでいくような気分になる……。

そんな自分の精神状態を個人ブログに書いたところ、「自分も似たような状態」、「数年前の自分を思い出す」というメッセージが同年代の女性を中心に数多く届き、「この年代の女は多かれ少なかれ、精神的に不安定」と書いて来た人までいた。つまり、これが更年期鬱、不定愁訴というものなのだろうか?

また、自分と同じようにフランスに長年住んでいて、数年前に帰国した私よりも一回り若い知人に会った時に、そんな話をしたところ、「フランスから帰国した人たちは大抵、同じような不安感に悩まされていますよ」と言われた。その後、一時帰国したパリ在住の知人と話す機会があり、「20年以上住んだフランスを離れて日本に戻るのは、すごいストレスになっていると思いますよ」と言われ、今更ながら、鬱の一因は完全帰国にあるのでは? と気づく。

日本帰国を決めた時に、フランス在住の友人知人たちから「思い切ったね」、「よく決心したね」と言われたが、自分の国しかも私の場合は自分が幼少期から高校生まで住んでいた町に帰るのだから、そんな大それたことをするわけではないと安易に考えていたのだ。しかし、22年間住んでいた国を離れて、新しい生活を始めるということは気づかないうちに、かなりの精神的負担になっていたのだろう。

更年期鬱と帰国鬱のダブルパンチである。

しかし鬱の理由がわかって、同じように苦しんでいる人が他にもいることを知ったところで、症状が消えるわけではない。

鬱の原因は思うような仕事がなかなか見つからず、収入が不安定なことから来る経済的不安にもある。元々フリーランスなので“安定”には縁がないのだが、以前のように“何とかなるさ、今までもずっと何とかなって来たのだから”と楽観的な気持ちを持つことが全くできないのである。

ただ、仕事が忙しければつまらないことを考えている暇はない。そして幸いなことに、ここのところ少しずつ仕事が増えて来た。

気候もよくなって来たし、日本の桜はきれいだし、これからまだ先の長そうな人生。焦らずに少しずつ立ち直って行こう、と自分に言い聞かせている。

江草由香(えぐさゆか)/プロフィール
編集者・ライター・通訳・翻訳者・イベントコーディネーター。
立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。フランスでPRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発フリーペーパー『Bisouビズ』を創刊し、現在日仏バイリンガルサイト『BisouJaponビズ・ジャポン』の編集長。個人ブログは『ビズ編集長ブログ』