第9回 フランスで3週間ほど過ごして

5月の終わりからから6月半ばにかけて3週間ほど息子と共にフランスで過ごした。仕事と行政上の手続き、そしてフランスの家族に会うためで、ブルターニュ地方に住む義母、義兄夫婦にも会いに行った。パリにいる時はフランス在住の友人知人、たまたまこの時期に仕事でパリに来ていた日本の知り合いなどと連日、食事に出かけ楽しく過ごした。

それで、気がつけばプチ鬱の症状が随分軽くなっていた。不眠は相変わらずだが、心臓が苦しくなるような言い知れぬ不安感に襲われることがほとんどなくなったのだ。もちろん、プチ鬱の原因となる問題が解決したわけではなく、慌ただしく過ごしながらたくさんの人と会っておしゃべりしながら美味しいものを食べて、その間はあれこれと余計なことを考えずに済んでいたからなのだけれど。

旅行に出て、つかの間日常生活を離れてリフレッシュするのと同じ効果だとは思うが、全く知らない異国への旅とも違う、長年住み慣れて、今も友人知人がいる国で過ごす安心感のようなものがある。

前回書いた“帰国鬱”について私より一足先にフランスから完全帰国した友人の解釈が面白かった。

フランスに長期滞在する日本人の中には、フランスで家族を作り仕事を持っていても、もし何かあれば日本に戻ろう、と祖国日本を心の拠り所にしている人が少なくないだろう。ところがいざ、完全帰国をすれば、日本の生活が現実=日常になり、当たり前のことだが生活していく中で色々な問題に直面する。もちろん日本はパラダイスだなんて楽天的に考えているわけではないが、こんなはずではなかった、と思うことが重なり、それが“帰国鬱”につながるのではないかと。特に個人主義の国フランスから和に重きを置く日本に戻れば、日本社会で暮らすための “日本流”に慣れる(を思い出す?)のはかなりの精神的負担になるに違いない、と。

そう考えるとこんな風に時々、フランスに行き、リフレッシュしながら徐々にリハビリのごとく日本生活に慣れていくのが理想的なやり方なのかもしれない。お金と時間の許す範囲で、だが。

江草由香(えぐさゆか)/プロフィール
編集者・ライター・通訳・翻訳者・イベントコーディネーター。
立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。フランスでPRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発フリーペーパー『Bisouビズ』を創刊。現在パリ・フランスとアート&モノづくりをテーマにしたサイト『BisouFranceビズ・フランス』の編集長。個人ブログは『湘南二宮時々パリ』