第10回 ボランティアと仕事の線引き

地元二宮の知人から連絡があり「知り合いがフランス語の通訳者を探しているから」と紹介されたのは二宮在住のソムリエで私より一回り若く、感じのいい女性Mさん。以前フランスでホームステイしていた家のマダムから、「日本に観光旅行で来るジャーナリストのカップルを手料理でもてなしてほしい」と頼まれたそうだ。

彼女にとっても仕事ではなく、私の通訳のギャラも出せないという。まずそのフランス人たちと夕食を共にして、翌日茶道のデモンストレーションと雅楽のミニコンサートを予定しているので、その通訳もして欲しい、と言われる。ただ、Mさんも無償であることを気にして「無理のない範囲で構わないし、一緒に食事をして気が合わないと思えば、翌日の通訳は断ってもらっても構わない」と付け加えられた。

ギャラをもらって通訳や翻訳の仕事を引き受けている自分は、無償であることに一瞬、戸惑いを覚えた。東京オリンピックのボランティア通訳問題を持ち出すほどではないが(もちろん私は反対)、自分の直接の友人知人でもない人のためにノーギャラで通訳を引き受けるのはどうだろう?

地元の地域活動などにはボランティアで参加しているが、自分の生業としていることをチャリティ以外の目的で無償で引き受けることには抵抗がある。Mさんを紹介してくれた知人は「二宮に仏語通訳者がいることをアピールするチャンスで、この先仕事につながるかもしれないし」と熱心に勧めてくれた。観光スポットも何もないこんな田舎町にフランス人が来るなんてこの先も滅多にないだろうが、これも何かの縁、と結局引き受けることにした。

Mさん宅に招かれた南仏出身のジャーナリスト夫婦は感じがよく、礼儀正しい人たちで、話題も豊富で夕食の席でも話が弾み、連絡先の交換をする。翌日の茶道のデモンストレーションと雅楽のコンサートも興味深いもので、これをきっかけに二宮在住の茶道の先生たちとも知己を得ることができた。そしてMさんとも今後、地元で何か一緒にフランス関連のイベントを企画しようという話にもなった。

お金にはならなかったが、フランスと地元二宮で新しい繋がりができるなど、得るものが多かった。思えば今までも似たようなことはあったし、結局、ボランティアと仕事の線引きをするのは簡単ではない気がする。

江草由香(えぐさゆか)/プロフィール
編集者・ライター・通訳・翻訳者・イベントコーディネーター。
立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。フランスでPRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発フリーペーパー『Bisouビズ』を創刊。現在パリ・フランスとアート&モノづくりをテーマにしたサイト『BisouFranceビズ・フランス』の編集長。個人ブログは『湘南二宮時々パリ』