ビクトリアはこぢんまりとまとまった街のため、車が無くても生活できる。カナダ第三の都市バンクーバーには、スカイトレインと呼ばれるモノレールのような公共交通機関があるが、ビクトリアにはスカイトレインも地下鉄もなく、公共の交通機関はバスのみになる。車やバス以外の人気の交通手段が、自転車だ。
昨今、世界各地で自転車専用レーン「バイクレーン」の整備が進んでいる。公共交通機関がかなり整っているバンクーバーでも10年前から、またお隣の国でもリベラルな都市を中心に自転車を考慮した街づくりがどんどん進められている。そんな中、健康志向の人、環境問題に熱心な人、自転車を愛用する人が多いビクトリアも続くこととなった。
ビクトリアのリサ・ヘルプス市長は2014年に選出された。2018年に再選され現在2期目を勤めている彼女は、自転車専用レーンの普及に熱心なことから良くも悪くも有名になった市長だ。カナダの一般車道では、自転車も車と一緒に車道を走ることが認められておりヘルメットの着用も義務づけられている。基本的に自転車は車道の真ん中ではなく、車の右側(カナダは右側運転)を走ることになっている。このため車やトラックが右折する際に後方確認を怠り、自転車を巻き込んでしまう事故が起こる。ヘルプス市長が提案したのは自転車のみが通行できるレーンを車道の脇に新しく建設するというものだ。対面二車線で、車道のミニバージョンのようなものを想像して欲しい。その後、2017年に340万カナダドル(約2億8千万円)をかけてビクトリアの最初の自転車専用レーンが完成した。
ところが、自転車に乗らない車派の市民からは税金の無駄使いだとする非難の声も多い。ヘルプス市長自身、市役所に自転車で通勤する自転車愛好家のため、自分に都合の良いバイクレーンの拡大をしているとの指摘もある。バイクレーンを建設することにより車のレーンが減ること、また路上駐車スペースが減ったことも車派の機嫌を損ねる原因になっている。そのような意見に対し市長は「反対の意見も多いようですが、私達は将来のため、温室効果ガスの排出を減らすためにバイクレーンの拡大を行っているのです」と答えている。2018年には別のストリートにバイクレーンを設置し、2019年7月現在、3つめのバイクレーンを建設中だ。これらのバイクレーンが最終的に全て繋がると、距離にして32キロにわたり、1万トンの温室効果ガスを減らす効果があるのだそうだ。
市民からの非難の声も多いヘルプス市長とバイクレーンだが、去年の秋にコミュニティエネルギー協会から「環境とエネルギー活動賞」を受賞した。市長は今回の受賞は市が正しい方向に向かっていることを示す証だとして喜んでいる。私自身も自転車を持たず普段は車のみで移動している。しかし、将来の環境保護のためには市民が自転車に乗りやすい環境を整えるのは消して悪いことではないと思っている。自転車にフレンドリーな街ビクトリアのバイクレーンの発展が楽しみだ。
《ピアレスゆかり/プロフィール》
カナダ在住ライター、コンサルタント、ポッドキャスト「はみだし系ライフの歩き方」プロデューサー兼ホスト。ブログもぼちぼち更新中。