第4回 100万冊の本の大移動

本屋が好きで、時間をつぶす必要がある時は大抵本屋に入る。最新のベストセラー本を眺めたり、古本屋ですっかり色のあせたクリスマスの絵本を集めたりするのが趣味だ。

ビクトリアで私が一番好きな本屋はRussell Booksだ。地下を含めて3フロアあり、地下はビンテージや収集家向けの古い本が、一階、二階では新しい本と古本が売られている。古本の買取りも行っている。日本語の本もある。二階はまさに床から天井まで本で溢れ、私も何度か写真を撮ってインスタグラムに載せたことがある。さらに数ブロック離れた場所に別の店舗もある。とにかく本が多く、ぶらぶら眺めるには最高の場所だが、訪れる度に、「在庫管理めちゃくちゃ大変そうだな」「そのうち本の重みで床抜けたりして……」などと他人事ながら気になっていた。

Russell Booksの歴史は1950年代のモントリオールまで遡る。現在のオーナー、アンドレアさんの祖父は銀行に勤めていたが、あまりにも本を多く持っていたため、妻に勧められて書店を始めたのだそうだ。その後モントリオールで最も大きな書店にまで成長し、1991年にビクトリアに進出。ビクトリアでは30年近く営業していて、現在も5世代にわたって家族経営が続いている、市民に愛されている本屋だ。現在のFort St.のロケーションにある本の数は約50万冊。支店と倉庫に眠っている本を含めると在庫は100万冊以上にのぼり、在庫数で言うとカナダで最も大きな本屋ということになるらしい。

そのRussel Booksが引っ越しをすることになった。行き先は通りを挟んだ向かい側。3階分のフロアを行き来することは高齢者はもちろんスタッフにとっても大変だったし、エレベーターも無かったので車いすの人などは利用できなかった。新しいロケーションではエスカレーターもエレベーターもあり、完全にバリアフリーになるそうだ。新しい店舗は6000スクエアフィート(約169坪)スペースが増えるので、顧客はさらに多くの本にアクセスできるようになる。

道の反対側に引っ越すだけとはいえ100万冊の本を移動するには大変な時間と労力がかかる。まずは地下のビンテージの本から移動しているそうで、現在いったい全体の何パーセントの本が移動できたのか聞いてみたが、「全く想像もつかない」とのこと。ただ来週には地下の本が完全に移動できる見込みだそうだ。60人いるスタッフの誰かが必ず常時本を移動しているが、引っ越し先が近すぎるゆえ逆にトラックなども使えず、完全に手動で本をプラスチックの箱につめ、それを数個ドリー(カート)に乗せてマニュアルで移動しているというから驚きだ。

新店舗も見せてもらった。カスタムサイズの書棚がまさに設置されようとしているところだった。移動してきた本は最終的にはきちんとカテゴリーにごとに書棚に収められなければいけないのでそのへんに適当に置くわけにもいかず、床にカテゴリー別に積まれていた。またアンドレアさんは本を探しに来てくれるお客さんのため、引っ越しの最中に店を閉めることはしたくなかったらしく、営業時間中にスタッフがコツコツと移動しているそうだ。新店舗を覗かせてくれたスタッフは、「移動、整理にも関わらず現在のロケーションにもひっきりなしにお客さんが来るので、目が回るほど忙しいです。でも、この歴史的な時期にRussell Booksで働けることをとても嬉しく思っています」と話してくれた。

在庫管理や移動を考えると気の遠くなりそうな作業だが、冬前には引っ越しを完了して新店舗のグランドオープニングを予定しているそうだ。この書店の一ファンとして、その日を楽しみに待っている。

ピアレスゆかり/プロフィール
カナダ在住ライター、通訳、文化コンサルタント。ポッドキャスト「はみだし系ライフの歩きかた」プロデューサー兼ホスト。ブログもぼちぼち更新中。