第5回(最終回) ストーリーと歌でつづるリメンバランス・デー

毎年11月11日はカナダ、オーストラリアを含むイギリス連邦の国々で、第一次世界大戦の戦没者を追悼するリメンバランス・デーだ。1918年のこの日にドイツと連合軍の休戦協定が結ばれ、第一次世界大戦が終結した。今では第一次世界大戦の戦没者の追悼とともに、退役・現役軍人へのサポートを示し、また第二次世界大戦以降の戦没者の追悼の日としても知られている。

オンタリオ州グエルフ出身の軍医ジョン・マクレーの「フランダースの野に」という有名な詩に出てくる芥子の花にちなんで、この時期はみな左胸に赤いポピーの花をつける。フランダースの野に並ぶ死者を弔う十字架の列と、野いっぱいに咲く真っ赤な芥子の花をうたった詩だ。街頭では退役軍人やボランティアがポピーの花と引き替えに寄付を募っている様子をみかけるし、店のカウンターに募金箱を設置しているところも多い。これらの寄付は退役軍人たちのサポートに使われる。

写真提供:Caleb Marshall, Canadian College of Performing Arts

11月11日は祝日で、毎年この時期には学校やコミュニティで追悼の式典が数多く開催される。私も、理事をつとめるパフォーミングアーツの学校と、地元の海軍楽団が共催するコンサートに出席した。前半は海軍楽団が演奏するマーチの演奏を楽しんだが、後半は雰囲気が一転してしんみりとなり、実在した兵士、John Bapst Croninからの手紙をもとにしたストーリーを織り交ぜたさまざまな曲が披露された。故郷で帰りを待つ恋人に向けた手紙を紹介したあと、”Don’t Sit Under The Apple Tree”「私以外の人とリンゴの木の下に座らないでね」という1939年のヒット曲や、軍隊での様子を書いた手紙とともに ”Oh How I Hate To Get Up In the Morning”という、軍隊生活をコミカルに歌った1918年の曲が紹介されたあと、遠く離れて愛する人を思う、日本でもよく知られている「ダニー・ボーイ」が歌われた。最後はCroninの戦死を告げる手紙とともに「フランダースの野に」が合唱され、涙ぐんでいる観客もみられた。

日本の終戦記念日でもよくあるように、追悼式典というのはスピーチや詩の朗読が多いなか、このようにストーリーと音楽を用いて追悼の念を表し、二度と同じような過ちを犯すまいとするコンサートスタイルは私自身にはとてもユニークな体験となった。音楽と歌のおかげでいっそう感動的な経験になったと思う。

写真提供:Caleb Marshall, Canadian College of Performing Arts

コンサートで集められた寄付金は出演した生徒達の学校と、軍隊に属する家族のサポートをする団体、Military Family Resource Centreに寄付された。ビクトリアには海軍基地があり、4500人近い軍人が属している。ここ数年は大きな戦争もなく、主な任務は平和維持やトレーニングだそうだが、特別な任務に参加している兵士の家族などは、突然の出兵を命じられると任務の詳細はもちろん、出兵先や、いつ帰ってくるかも知らされないことがあるそうだ。この団体はそういった家族のためのサポートを提供している。

辛い過去を思い出すだけでなく、歴史を忘れないよう、毎年若い世代に引き継いでいくことの大切さも感じた。来年はこのコンサートにぜひ家族も連れて行こうと思った。

 

ピアレスゆかり/プロフィール
カナダ在住ライター、通訳、文化コンサルタント。ポッドキャスト「はみだし系ライフの歩きかた」プロデューサー兼ホスト。ブログもぼちぼち更新中。